要素 | 内容 |
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バーゼル合意 | 国際的に活動する銀行の健全性を維持するための国際統一基準 |
目的 | 金融システムの安定化、銀行間の競争条件の平準化、預金者の保護 |
内容 | 自己資本比率規制、流動性規制、レバレッジ比率規制 |
影響 | 銀行の経営戦略、金融市場、経済への影響 |
最新動向 | バーゼルⅢの最終化、銀行の対応、今後の展望 |
1. バーゼル合意とは
バーゼル合意の概要
バーゼル合意とは、国際的に活動する銀行の健全性を維持するための国際統一基準のことです。日本を含む多くの国で銀行規制として採用されています。バーゼル銀行監督委員会(通称、バーゼル委員会)が定めるため、こう呼ばれます。バーゼル委員会は、スイス・バーゼルにある国際決済銀行(BIS)に事務局を置いており、委員会が通常そこで会合することが、バーゼル合意と呼ばれるゆえんです。
バーゼル合意は、金融システム不安を防ぐと同時に、各国の銀行の競争条件をそろえるねらいがあります。自己資本比率や流動性比率などを基準に健全性を評価するという特徴をもっています。バーゼル規制とも呼ばれます。また、バーゼル委員会が国際決済銀行(BIS)内に事務局をもつため、BIS規制ともいわれることもあります。
バーゼル合意は、経済・金融情勢の変化にあわせて過去に二度の大幅改定を経ており、最新のバーゼル合意はバーゼルⅢと呼ばれます。
名称 | 説明 |
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バーゼル合意 | バーゼル銀行監督委員会が定める銀行監督合意 |
バーゼル規制 | バーゼル合意の別称 |
BIS規制 | 国際決済銀行(BIS)に事務局を置くことから呼ばれる別称 |
バーゼル合意の目的
バーゼル合意の目的は、国際的な銀行システムの健全性の強化と、国際業務に携わる銀行間の競争上の不平等の軽減です。これにより、銀行の自己資本比率の測定方法や、達成すべき最低水準が定められました。
具体的には、銀行が想定外の損失に直面した場合でも経営危機に陥ることのないよう、自己資本比率規制が厳格化されました。また、急な資金の引き出しに備えるための流動性規制や、過大なリスクテイクを抑制するためのレバレッジ比率規制などが導入されました。
規制を設計する際、金融システム全体の安定性を維持するというマクロ・プルーデンスの観点が重視されている点も一つの特徴です。
バーゼル合意の適用
バーゼル合意は、国際的に活動する銀行に対して適用されます。日本においては、1992年度末からバーゼルIが本格的に適用されました。
その後、バーゼルIIが2006年度末から、バーゼルIIIが2013年(平成25年)から段階的に実施され、最終的には、2028年初から完全に実施される予定になっています。
バーゼル合意は、国際的な合意であり、それだけでは法的拘束力はありません。各国が国内法令に落とし込むことで、初めて現実の効力を持ちます。
まとめ
バーゼル合意は、国際的に活動する銀行の健全性を維持するための国際統一基準であり、金融システムの安定化と銀行間の競争条件の平準化を目的としています。
自己資本比率や流動性比率などの基準を用いて銀行の健全性を評価し、想定外の損失や資金引き出しに備えるための規制を設けています。
バーゼル合意は、バーゼルI、バーゼルII、バーゼルIIIと段階的に改定され、最新のバーゼルIIIは、より厳格な自己資本比率規制や流動性規制などを導入しています。
バーゼル合意は、国際的な合意であり、各国が国内法令に落とし込むことで、初めて現実の効力を持ちます。
2. バーゼル合意の歴史
バーゼル合意導入の背景
バーゼル合意の導入は、1974年の西ドイツのヘルシュタット銀行とニューヨークのフランクリン・ナショナル銀行の破綻に伴う混乱を発端としています。
こうした金融危機に対処するため、1974年に、G10中央銀行総裁会議はG10諸国の中央銀行と銀行監督当局からなる協議の場として「銀行業の規制と監督実務に関する委員会」を設けることを決定しました。
その後、1982年にラテンアメリカで債務危機が起こります。この危機の詳細は国際金融などのテキストに譲りますが、BCBSでは自己資本の充実とともに、国際的に統一的なルールの必要性が共有されました。
時期 | 出来事 |
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1974年 | ヘルシュタット銀行とフランクリン・ナショナル銀行の破綻 |
1982年 | ラテンアメリカ債務危機 |
1988年 | バーゼルIの合意 |
バーゼルIの導入
1988年にバーゼルで国際的な銀行への規制の合意がなされました。これが、バーゼルIです。
当初の規制は現在のような複雑なものではなく、株主資本による基礎的な項目(Tier1)に加え、劣後債や有価証券含み益で構成される補完的項目(Tier2)の合計がリスク・アセット対比で8%以上になることを求めるというものでした。
また、リスク・アセットについても、企業向け与信、銀行向け与信、住宅ローン、国債保有額について一定のウェイトを掛けて算出していました。
バージョン | 内容 | 導入時期 |
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バーゼルI | 自己資本比率規制の導入 | 1992年末(邦銀は1993年3月末) |
バーゼルII | リスク・アセットの測定方法の精緻化 | 2006年末(邦銀は2007年3月末) |
バーゼルIII | 自己資本比率規制の厳格化、流動性規制、レバレッジ比率規制の導入 | 2013年(平成25年)から段階的に実施 |
バーゼルIIへの改革
2000年代前半から、バーゼルIIに向けた改革が始まりました。バーゼルIIで強調された点はリスク・アセットの測定を精緻化することです。
1990年以降、Value at Risk(VaR)などそれまでにないリスク管理の高度化が進みました。銀行が有する資産のリスク量を反映したリスク・アセットを算出しますが、当時の手法は非常にシンプルであり、実態を反映していないという問題意識が共有されました。
また、バーゼル規制が、銀行のリスク管理手法と大きく異なる手法を用いていると、銀行の意思決定にゆがみを生じさせてしまうというリスクも考えられました。
バーゼルIIIへの改革
2008年のリーマン・ブラザーズの破綻などを含む世界金融危機が起こり、これまでの規制を抜本的に改正する必要性が生まれました。
金融危機時には色々な問題点が明らかになったわけですが、特に強調したい点は、自己資本の損失吸収力が弱いことが明らかになった点です。
そこで、バーゼルIIIでは、より損失吸収力が高い資本を強調するため、「普通株式等Tier1資本」(Common Equity Tier 1)という概念が導入されました。
バーゼルIIIは、世界各国において2013年(平成25年)から段階的に実施されており、最終的には、2028年初から完全に実施される予定になっています。
3. バーゼル合意の目的
金融システムの安定化
バーゼル合意の最も重要な目的は、金融システムの安定化です。
銀行は、預金という短期資金を調達して、貸出や投資という長期資金を運用するビジネスモデルをとっています。
そのため、多くの預金者が同時に預金を引き出し(取り付け)が発生した場合、銀行は資金不足に陥り、破綻する可能性があります。
銀行の破綻は、金融システム全体に波及し、経済活動を停滞させる可能性があります。
問題点 | 対策 |
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銀行の破綻 | 自己資本比率規制の導入 |
取り付け騒ぎ | 流動性規制の導入 |
金融システム全体への影響 | マクロ・プルーデンスの観点からの規制 |
銀行間の競争条件の平準化
バーゼル合意は、国際的に活動する銀行に対して、共通の規制を課すことで、銀行間の競争条件を平準化することを目的としています。
各国で異なる規制が適用されると、規制の緩い国では、自己資本比率が低い銀行が優位に立つ可能性があります。
これは、国際的な競争を歪め、金融システム全体の安定性を損なう可能性があります。
問題点 | 対策 |
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規制の緩い国での優位性 | 共通の規制を課す |
国際的な競争の歪み | 国際的な合意に基づく規制 |
預金者の保護
バーゼル合意は、預金者の保護にも貢献しています。
銀行が破綻した場合、預金者は預金を失う可能性があります。
バーゼル合意は、銀行の自己資本比率を一定水準以上に維持することで、銀行の破綻リスクを抑制し、預金者の保護に役立っています。
問題点 | 対策 |
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預金者の預金損失 | 自己資本比率規制による銀行の破綻リスク抑制 |
銀行の破綻による経済への影響 | 預金保険制度の導入 |
まとめ
バーゼル合意は、金融システムの安定化、銀行間の競争条件の平準化、預金者の保護という3つの重要な目的を達成するために策定されました。
バーゼル合意は、銀行の健全性を維持するための国際的な枠組みとして、世界経済の安定に大きく貢献しています。
4. バーゼル合意の内容
自己資本比率規制
バーゼル合意の中心となるのは、自己資本比率規制です。
自己資本比率とは、銀行の自己資本をリスクアセットで割った比率のことです。
自己資本とは、銀行が損失を吸収するために保有する資金のことです。リスクアセットとは、銀行が保有する資産のうち、元本割れのリスクのある資産のことです。
自己資本比率が高いほど、銀行は損失を吸収する能力が高く、健全であると判断されます。
項目 | 説明 |
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自己資本 | 銀行が損失を吸収するために保有する資金 |
リスクアセット | 銀行が保有する資産のうち、元本割れのリスクのある資産 |
自己資本比率 | 自己資本 ÷ リスクアセット |
流動性規制
バーゼル合意では、流動性規制も導入されています。
流動性規制とは、銀行が、預金者の引き出し要求に迅速に対応できるよう、十分な流動性資産を保有することを義務付ける規制です。
流動性資産とは、すぐに現金化できる資産のことです。
項目 | 説明 |
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流動性資産 | すぐに現金化できる資産 |
流動性規制 | 銀行が預金者の引き出し要求に迅速に対応できるよう、十分な流動性資産を保有することを義務付ける規制 |
レバレッジ比率規制
バーゼル合意では、レバレッジ比率規制も導入されています。
レバレッジ比率とは、銀行の総資産を自己資本で割った比率のことです。
レバレッジ比率が高いほど、銀行は自己資本に対して多くの資産を運用しており、リスクが高いと判断されます。
項目 | 説明 |
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レバレッジ比率 | 総資産 ÷ 自己資本 |
レバレッジ比率規制 | 銀行が自己資本に対して多くの資産を運用することを抑制する規制 |
まとめ
バーゼル合意は、自己資本比率規制、流動性規制、レバレッジ比率規制など、銀行の健全性を維持するための様々な規制を導入しています。
これらの規制は、銀行の破綻リスクを抑制し、金融システムの安定に貢献しています。
5. バーゼル合意の影響
銀行の経営戦略への影響
バーゼル合意は、銀行の経営戦略に大きな影響を与えています。
自己資本比率規制が厳格化されたことで、銀行は、自己資本を増やすために、増資や配当抑制などの対策を講じざるを得なくなりました。
また、流動性規制が導入されたことで、銀行は、流動性資産の保有を増やす必要があり、貸出や投資の戦略を再考する必要が出てきました。
規制 | 影響 |
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自己資本比率規制 | 増資、配当抑制 |
流動性規制 | 流動性資産の保有増加、貸出や投資戦略の再考 |
レバレッジ比率規制 | リスクの高い資産への投資抑制 |
金融市場への影響
バーゼル合意は、金融市場にも大きな影響を与えています。
自己資本比率規制が厳格化されたことで、銀行は、リスクの高い資産への投資を抑制する傾向にあります。
これは、金融市場のボラティリティを抑制し、安定化に貢献しています。
規制 | 影響 |
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自己資本比率規制 | リスクの高い資産への投資抑制、金融市場の安定化 |
流動性規制 | 流動性資産の需要増加、金利の変動 |
レバレッジ比率規制 | 銀行の貸出抑制、経済活動への影響 |
経済への影響
バーゼル合意は、経済にも大きな影響を与えています。
銀行の自己資本比率が向上することで、銀行の破綻リスクが低下し、経済活動が安定化します。
また、銀行がリスクの高い資産への投資を抑制することで、経済の過熱を防ぐ効果もあります。
規制 | 影響 |
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自己資本比率規制 | 銀行の破綻リスク低下、経済活動の安定化 |
流動性規制 | 金融市場の安定化、経済活動の円滑化 |
レバレッジ比率規制 | 経済の過熱抑制、金融システムの安定化 |
まとめ
バーゼル合意は、銀行の経営戦略、金融市場、経済に大きな影響を与えています。
バーゼル合意は、金融システムの安定化に貢献し、世界経済の健全な発展に役立っています。
6. バーゼル合意の最新動向
バーゼルⅢの最終化
バーゼルⅢは、2008年の金融危機を受けて、2010年に公表されました。
バーゼルⅢでは、自己資本比率規制がさらに厳格化され、流動性規制やレバレッジ比率規制などが導入されました。
バーゼルⅢは、段階的に実施され、最終的には、2028年初から完全に実施される予定になっています。
項目 | 内容 |
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自己資本比率規制 | 厳格化 |
流動性規制 | 強化 |
レバレッジ比率規制 | 導入 |
リスクアセットの計測方法 | 変更 |
バーゼルⅢ最終化への対応
バーゼルⅢ最終化は、銀行にとって大きな課題となっています。
銀行は、自己資本比率規制の厳格化に対応するために、増資や配当抑制などの対策を講じる必要があり、流動性規制やレバレッジ比率規制にも対応する必要があります。
また、バーゼルⅢ最終化では、リスクアセットの計測方法も変更されており、銀行は、新たな計測方法に対応するためのシステム改修や人員配置などの対策を講じる必要があります。
対応 | 内容 |
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増資 | 自己資本比率規制の厳格化に対応 |
配当抑制 | 自己資本比率規制の厳格化に対応 |
システム改修 | リスクアセットの計測方法の変更に対応 |
人員配置 | リスクアセットの計測方法の変更に対応 |
今後の展望
バーゼル合意は、今後も、金融システムの安定化と銀行の健全性の維持のために、進化していくと考えられます。
今後のバーゼル合意の動向としては、デジタル化や気候変動などの新たなリスクへの対応が挙げられます。
バーゼル合意は、世界経済の安定に重要な役割を果たしており、今後もその動向に注目していく必要があります。
課題 | 内容 |
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デジタル化 | サイバーセキュリティリスクへの対応 |
気候変動 | 気候変動リスクへの対応 |
金融システムの安定化 | 新たなリスクへの対応 |
まとめ
バーゼル合意は、金融システムの安定化と銀行の健全性の維持のために、常に進化しています。
バーゼルⅢ最終化は、銀行にとって大きな課題となっていますが、同時に、金融システムの安定化と銀行の健全性の維持に大きく貢献するものです。
今後のバーゼル合意の動向としては、デジタル化や気候変動などの新たなリスクへの対応が挙げられます。
バーゼル合意は、世界経済の安定に重要な役割を果たしており、今後もその動向に注目していく必要があります。
参考文献
・バーゼル合意(Bis規制)をわかりやすく解説 | リラックス法学部
・バーゼル合意、バーゼルi、Ii、Iiiとは何ですか? いわゆるbis …
・わかりやすい用語集 解説:バーゼル合意(ばーぜるごうい …
・銀行の自己資本比率規制はどう変わった?「バーゼル3」の複雑 …
・PDF バーゼル Iii 最終化に係る自己資本比率告示のポイント -信用 …