項目 | 内容 |
---|---|
定義 | 巨大銀行が破綻した場合に、その損失を吸収するために発行される債券 |
発行主体 | 主にグローバルでシステム上重要な銀行(G-SIBs)などの大手金融機関の持株会社 |
償還条件 | 長期の要件として、償還期限までの期間が1年以上であること。破綻時などに元本の削減や免除が行われる可能性がある。早期償還条項が存在する場合でも、規制当局の事前承認が必要。ステップアップ金利は特定の制限が設けられている。 |
規制内容 | 金融安定理事会(FSB)が制定した新たな資本規制の基準。破綻した場合に金融市場への影響が大きい巨大銀行に対して、経営難に陥った際に税金で救済しなくてもすむように、資本や社債の積み増しを求める規制。 |
影響 | 金融市場に新たな投資機会を提供。債券市場の流動性向上に貢献。金融機関の資金調達コスト上昇につながる可能性。金融機関の健全性を強化し、金融システム全体の安定化に貢献。経済成長の阻害要因となる可能性も懸念。 |
他の債券との違い | 普通社債よりも高い利回りが期待できる一方で、破綻時に元本の削減や免除が行われるリスクがある。劣後債よりも弁済順位が高い一方で、普通社債よりも弁済順位が低い。CoCo債と同様に、破綻時に元本の削減や株式への転換が行われる可能性がある。 |
将来展望 | 金融システムの安定化を目的として、今後さらに強化される可能性がある。TLAC債の発行規模拡大や償還条件厳格化など、様々な形で実現される可能性がある。TLAC債の市場は拡大していく可能性がある。TLAC規制は、国際的な標準化が進められている。 |
投資の注意点 | 償還リスク、金利変動リスク、流動性リスクなどのリスクがある。リスク許容度の高い投資家向け。 |
1. TLAC債とは
TLAC債の定義
TLAC債とは、Total Loss-Absorbing Capacity(総損失吸収力)債の略で、世界の巨大銀行(G-SIBs、Global Systemically Important Banks)が金融危機に陥った場合に備えて、同銀行の持ち株会社が発行する社債のことです。
国際的な金融システムへの影響が大きい巨大銀行の破綻を救済する際、公的資金の注入等で納税者に負担がかかるのを防ぐための措置として、金融安定理事会(FSB)が新たに導入する規制に対応して発行されます。
あらかじめ損失を吸収できる規模の社債を発行しておき、破たん時にその社債の保有者が損失を負担する仕組みとなっています。
用語 | 説明 |
---|---|
TLAC | Total Loss-Absorbing Capacity(総損失吸収力)の略。巨大銀行が破綻した場合に、その損失を吸収する能力のこと。 |
TLAC債 | TLACに対応するために発行される債券。銀行の破綻を回避するものではなく、破綻時に公的資金を使った救済を避ける目的で発行される。 |
TLAC債の発行主体
TLAC債の発行主体は、主にグローバルでシステム上重要な銀行(G-SIBs)などの大手金融機関の持株会社です。
日本では、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの3つのメガバンクグループと野村ホールディングスがこの対象に含まれます。
そのため、三菱UFJ銀行が発行する債券は普通社債ですが、三菱UFJフィナンシャル・グループが発行している普通社債はTLAC債となります。
国 | 発行主体 |
---|---|
日本 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの3つのメガバンクグループと野村ホールディングス |
TLAC債の償還条件
TLAC債の償還条件は以下の通りです。
・長期の要件として、TLAC債の償還期限までの期間が1年以上でなければなりません。
・一般的な社債とは異なり、金融機関が破綻するなど特定のイベントが発生した場合、株主や他の債権者よりも先に損失を吸収するために、元本の削減や免除が行われる可能性があります。
・早期償還条項が存在する場合でも、その実行には一定の制限があります。例えば、規制当局の事前承認が必要です。
項目 | 内容 |
---|---|
償還期限 | 1年以上 |
元本削減 | 破綻時などに元本の削減や免除が行われる可能性がある。 |
早期償還 | 規制当局の事前承認が必要。 |
ステップアップ金利 | 特定の制限が設けられている。 |
まとめ
TLAC債は、巨大金融機関が破綻した場合に、公的資金による救済を回避するために発行される特殊な債券です。
TLAC債は、銀行の破綻を回避するものではなく、破綻した際に公的資金を使った救済を避ける目的で発行される債券です。
TLAC債は、金融機関が破綻した場合に、元本を削減し損失を吸収することで預金者や普通社債の保有者を保護する役割があります。
2. TLAC債の規制内容
TLAC規制の目的
TLAC規制は、「Too big to fail(TBTF)、大きすぎて潰せない」問題に対処するために導入されました。
2008年の金融危機以降、グローバルで展開する金融機関が仮に破綻した場合でも、納税者への負担を回避しながら、金融システムへの連鎖も防ぐことが可能になる破綻処理制度の確立が求められました。
TLAC規制は、巨大金融機関の破綻時に、極力公的資金に頼ることなく円滑な処理を行うため、平時の自己資本比率規制の延長として、破綻時に損失吸収や資本再構築の役割を果たす機能を持つ債務の発行を事前に求めておくものです。
TLAC規制の対象
TLAC規制の対象は、国際合意によりグローバルなシステム上重要な銀行と定められる「G-SIBs (Global Systemically Important Banks)」の約30行となっています。
日本では、三菱UFJ・みずほ・三井住友の3メガバンクが対象となります。
また、G-SIBsには含まれませんが、海外の事業規模が大きいことと、破綻時に金融システムに与える影響が大きいことから、日本では金融庁の裁量で野村HDもTLAC規制の対象に加わりました。
国 | 対象となる金融機関 |
---|---|
日本 | 三菱UFJ・みずほ・三井住友の3メガバンク、野村HD |
TLAC規制の最低所要水準
TLACの最低所要水準はリスクアセット対比で第1段階の2019年1月で16%、第2段階の2022年1月で18%となっています。
2022年基準では、バーゼルⅢの自己資本に上乗せして必要なTLACは、リスクアセット対比で最大10%となりますので、TLAC適格債の発行ニーズは高いと考えられます。
TLAC規制は、バーゼルIIIにおける自己資本比率規制と同様に、所要水準を満たさない場合は厳しい監督上の対応が行われること等の工夫もなされています。
基準 | 水準 |
---|---|
リスクアセット対比 | 18%以上 |
負債性の調達手段 | 1/3以上 |
まとめ
TLAC規制は、巨大金融機関の破綻時に、公的資金に頼ることなく円滑な処理を行うことを目的としています。
TLAC規制は、G-SIBsなどの巨大金融機関に対して、自己資本比率規制に加えて、追加的に損失吸収力を持つ債務の発行を義務付けるものです。
TLAC規制は、リスクアセット対比で18%以上のTLACを確保することを求めており、そのうち1/3以上は負債性の調達手段で満たすことが期待されています。
3. TLAC債の影響
金融市場への影響
TLAC債の発行は、金融市場に新たな投資機会を提供すると同時に、債券市場の流動性向上に貢献する可能性があります。
TLAC債は、通常の社債と比べて高い利回りが期待できるため、投資家にとって魅力的な投資対象となる可能性があります。
しかし、TLAC債は、金融機関の破綻リスクを伴うため、投資家はリスクを十分に理解した上で投資を行う必要があります。
金融機関への影響
TLAC規制は、金融機関の資金調達コスト上昇につながる可能性があります。
TLAC債は、通常の社債よりも高い利回りを支払う必要があるため、金融機関の資金調達コストは高くなります。
しかし、TLAC規制は、金融機関の健全性を強化し、金融システム全体の安定化に貢献する可能性があります。
経済への影響
TLAC規制は、金融機関の経営戦略に影響を与える可能性があります。
TLAC規制は、金融機関のリスクテイクを抑制し、健全な経営を促進する効果が期待されます。
しかし、TLAC規制は、金融機関の貸出抑制につながる可能性もあり、経済成長の阻害要因となる可能性も懸念されています。
まとめ
TLAC債は、金融市場、金融機関、経済に様々な影響を与えると予想されます。
TLAC債は、投資家にとって新たな投資機会を提供する一方で、金融機関の資金調達コスト上昇につながる可能性があります。
TLAC規制は、金融機関の健全性を強化し、金融システム全体の安定化に貢献する可能性がありますが、経済成長の阻害要因となる可能性も懸念されています。
4. TLAC債と他の債券との違い
普通社債との違い
TLAC債は、普通社債よりも高い利回りが期待できる一方で、破綻時に元本の削減や免除が行われるリスクがあります。
普通社債は、元本が保証されているため、TLAC債よりも安全性の高い投資対象とされています。
しかし、TLAC債は、普通社債よりも高い利回りを支払うことで、投資家にリスクを負担してもらう代わりに、金融機関はより低コストで資金調達を行うことができます。
項目 | TLAC債 | 普通社債 |
---|---|---|
利回り | 高い | 低い |
元本保証 | なし | あり |
破綻時のリスク | 元本削減や免除の可能性 | 元本保証 |
劣後債との違い
TLAC債は、劣後債よりも弁済順位が高い一方で、普通社債よりも弁済順位が低いという特徴があります。
劣後債は、破綻時に最も損失を被る可能性が高い債券です。
TLAC債は、劣後債よりも高い利回りを支払うことで、投資家にリスクを負担してもらう代わりに、金融機関はより低コストで資金調達を行うことができます。
項目 | TLAC債 | 劣後債 |
---|---|---|
弁済順位 | 普通社債より劣後、劣後債より優先 | 最も劣後 |
利回り | 高い | 最も高い |
破綻時のリスク | 元本削減や免除の可能性 | 元本喪失の可能性が高い |
CoCo債との違い
TLAC債は、CoCo債と同様に、破綻時に元本の削減や株式への転換が行われる可能性があります。
しかし、TLAC債は、CoCo債よりも発行主体が限定的であり、発行される規模も小さい傾向があります。
TLAC債は、CoCo債よりも高い利回りを支払うことで、投資家にリスクを負担してもらう代わりに、金融機関はより低コストで資金調達を行うことができます。
項目 | TLAC債 | CoCo債 |
---|---|---|
発行主体 | 限定的 | 幅広い |
規模 | 小さい | 大きい |
破綻時のリスク | 元本削減や株式への転換 | 元本削減や株式への転換 |
利回り | 高い | 高い |
まとめ
TLAC債は、普通社債、劣後債、CoCo債などの他の債券と比べて、破綻時の損失吸収機能が強化された債券です。
TLAC債は、高い利回りを期待できる一方で、破綻時のリスクも高いという特徴があります。
投資家は、TLAC債の特性とリスクを十分に理解した上で、自身の投資目的やリスク許容度に合わせて投資判断を行うことが重要です。
5. TLAC債の将来展望
TLAC規制の強化
TLAC規制は、金融システムの安定化を目的として、今後さらに強化される可能性があります。
TLAC規制の強化は、TLAC債の発行規模拡大やTLAC債の償還条件厳格化など、様々な形で実現される可能性があります。
TLAC規制の強化は、金融機関の資金調達コスト上昇やリスクテイク抑制につながる可能性があります。
TLAC債の市場拡大
TLAC規制の強化に伴い、TLAC債の市場は拡大していく可能性があります。
TLAC債は、投資家にとって新たな投資機会を提供する一方で、金融機関の資金調達コスト上昇につながる可能性があります。
TLAC債の市場拡大は、金融市場の流動性向上や投資家の選択肢増加につながる可能性があります。
TLAC債の国際的な標準化
TLAC規制は、国際的な標準化が進められています。
TLAC規制の国際的な標準化は、金融機関のグローバルな資金調達を促進し、金融システム全体の安定化に貢献する可能性があります。
しかし、TLAC規制の国際的な標準化は、各国間の規制の差異を解消する必要があり、実現には時間がかかる可能性があります。
まとめ
TLAC債は、金融システムの安定化を目的として、今後さらに重要な役割を果たしていくことが予想されます。
TLAC規制の強化やTLAC債の市場拡大は、金融市場、金融機関、経済に大きな影響を与える可能性があります。
投資家は、TLAC債の将来展望を踏まえた上で、自身の投資目的やリスク許容度に合わせて投資判断を行うことが重要です。
6. TLAC債投資の注意点
償還リスク
TLAC債は、金融機関が破綻した場合に、元本の削減や免除が行われるリスクがあります。
投資家は、TLAC債に内在するリスクを十分に理解した上で投資を行う必要があります。
TLAC債は、高い利回りを期待できる一方で、元本が保証されていないため、リスク許容度の高い投資家に適した投資対象と言えます。
金利変動リスク
TLAC債は、金利変動の影響を受けやすいという特徴があります。
金利上昇局面では、TLAC債の価格が下落する可能性があります。
投資家は、金利変動リスクを考慮した上で投資を行う必要があります。
流動性リスク
TLAC債は、市場での流通量が少なく、売却が困難になる可能性があります。
特に、金融危機時には、TLAC債の流動性が低下し、投資家が換金できなくなるリスクがあります。
投資家は、TLAC債の流動性リスクを考慮した上で投資を行う必要があります。
まとめ
TLAC債は、高い利回りを期待できる一方で、償還リスク、金利変動リスク、流動性リスクなどのリスクも伴います。
投資家は、TLAC債の特性とリスクを十分に理解した上で、自身の投資目的やリスク許容度に合わせて投資判断を行うことが重要です。
TLAC債は、リスク許容度の高い投資家に適した投資対象と言えます。
参考文献
・Tlac債についての分かりやすくて詳しい説明 – ファイナンシャルスター
・わかりやすい用語集 解説:Tlac(てぃーらっく) | 三井住友dsアセットマネジメント
・PDF 我が国における Tlac(総損失吸収力)規制 – 財務省
・PDF 日本の Tlac 規制および Tlac 保有規制の概要 -大手金融機関の秩序ある破綻処理を支える枠組み-
・Tlac債とは?メリットとデメリットについて解説 | 富裕層の資産運用・債券のご相談ならifaのウェルス・パートナー
・PDF 平成30(2018)年4月13日改訂(第2版) 金融庁 先般発生した世界的な金融危機への反省を踏まえ、グローバルなシステム上
・TLAC債の基礎知識【債券の基礎シリーズ⑧】|藤村大星(富裕層向けIFA)
・三井住友FGがTLAC債1300億円、大型起債続出で6月は銘柄格差も – Bloomberg
・未だ不透明なtlac債のリスク・ウェイト 2016年02月10日 | 大和総研 | 鈴木 利光