要素 | 説明 |
---|---|
収入 | 労働収入と財産収入に分けられる。労働収入は給与、賞与、退職金など。財産収入は不動産、株式、債券などから得られる収入。 |
支出 | 消費支出と非消費支出に分けられる。消費支出は食費、住居費、教育費、娯楽費など。非消費支出は税金、社会保険料、住宅ローン返済など。 |
税金 | 所得税、住民税、消費税など、国や地方自治体によって課せられる。 |
社会保険料 | 健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料など、社会保障制度を維持するために支払われる。 |
1. 実質可処分所得とは
実質可処分所得の定義
実質可処分所得とは、個人が税金や社会保険料などを支払った後に自由に使える所得のことです。これは、生活費に回せるお金(食費、住居費、教育費、娯楽費)など、日々の生活を送るために自由に使えるお金の総額を示しています。簡単に言えば、「手に入れた収入から必要な支出を差し引いた後の金額」と理解するとよいでしょう。
実質可処分所得は、個人の経済的な自由や生活水準を測る重要な指標です。収入が高くても、税金や社会保険料などの必要な支出が多ければ、実際に自由に使えるお金は少なくなります。逆に、収入はそれほど高くなくても、必要な支出が少なければ、より多くの可処分所得を確保でき、生活水準を向上させることが可能です。
日本の家計の可処分所得は全体として伸び悩んでいます。日本経済新聞の記事によると、2021年の2人以上の勤労者世帯の実収入(労働以外からの稼ぎを含む)は月60万円で、この2割に相当する所得税などの税金や社会保険料(計約11万円)を差し引いた約49万円が手取りとなります。しかし、欧州委員会によると、日本の家計の可処分所得は2000年と比べて2021年は横ばいにとどまり、米国(約2.6倍)や欧州(約1.6倍)と比べて大きく見劣りしています。これは収入が伸び悩んでいることと、社会保障負担が膨らんでいることの両方の理由があります。
家計が苦しいと支出に影響が出ます。例えば、消費支出に占める食費の割合である「エンゲル係数」をみると、日本では2020年に26%と2000年以降で最高となり、2021年も25%強と2番目に高くなりました。手取りが少ないほど食費が優先されて娯楽費などが削られることから、エンゲル係数の高さは生活に余裕がないことを示すとされています。さらに、足元で進む食品などのインフレがさらなる懸念材料となっています。
項目 | 金額 |
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収入 | 600万円 |
社会保険料 | 120万円 |
所得税 | 80万円 |
住民税 | 30万円 |
可処分所得 | 370万円 |
可処分所得と手取りの違い
「可処分所得」と「手取り」は、基本的に同じ意味で使われます。両者とも、給料や収入から税金や社会保険料などが差し引かれた後の金額を指します。
手取りがある程度多くても、生活費がそれ以上に多いと、実際に自由に使えるお金は少なくなります。逆に、手取りは少なくても、必要な支出をうまく管理すれば、より多くの可処分所得を確保することができるでしょう。
この違いを理解することで、自分の経済状況をより正確に把握し、効果的な家計管理を行うことができます。また、可処分所得は生活水準や生活の質を測る指標ともなります。
可処分所得の計算式
可処分所得は、次の計算式で求めることができます。\n\n可処分所得 = 収入 – (社会保険料 + 所得税 + 住民税 + その他の非消費支出)\n\nここで、各項目は以下のように定義されます。\n\n* 収入: 給与、事業所得、不動産所得、金融所得など\n* 社会保険料: 健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料など\n* 所得税: 所得に応じて課せられる税金\n* 住民税: 住んでいる自治体によって課せられる税金\n* その他の非消費支出: 生命保険料、住宅ローン返済など
例えば、年収600万円の給与所得者がいるとします。所得税が80万円、住民税が30万円、社会保険料が120万円だとすると、可処分所得は次のように計算されます。\n\n可処分所得 = 600万円 – (80万円 + 30万円 + 120万円) = 370万円
この計算式を用いて、自分の可処分所得を把握することで、家計管理や将来の計画に役立てることができます。
まとめ
実質可処分所得は、収入から税金や社会保険料などの非消費支出を差し引いた金額であり、個人が自由に使えるお金の量を示します。
手取り収入と実質可処分所得はほぼ同じ意味で使われますが、生活費などの消費支出を考慮すると、手取り収入が多いからといって必ずしも自由に使えるお金が多いとは限りません。
実質可処分所得を計算することで、自分の経済状況を把握し、家計管理や将来の計画を立てる上で役立ちます。
2. 実質可処分所得の重要性
生活水準の向上
実質可処分所得は、個人の生活水準を大きく左右する重要な要素です。実質可処分所得が多いほど、食費、住居費、教育費、娯楽費など、生活に必要な支出を余裕を持って行うことができ、より豊かな生活を送ることが可能になります。
例えば、実質可処分所得が増加することで、より質の高い食品やサービスを消費したり、旅行や趣味など、自己投資やエンターテイメントに使えるお金を増やしたりすることができます。
また、将来の貯蓄や投資にも余裕を持つことができ、老後の生活設計や資産形成にも役立ちます。
経済活性化への貢献
実質可処分所得の増加は、経済活性化にも大きく貢献します。消費支出は、経済活動の重要な要素であり、実質可処分所得が増加することで、消費支出が増加し、企業の売上や雇用創出につながります。
特に、日本経済は個人消費が大きな部分を占めているため、実質可処分所得の増加は、経済成長を促進する上で重要な役割を果たします。
また、実質可処分所得の増加は、投資意欲を高め、企業の設備投資や新規事業の創出を促進する効果も期待できます。
社会問題との関連
実質可処分所得の減少は、社会問題とも深く関連しています。日本では、近年、実質可処分所得の伸び悩みが指摘されており、特に若者世代や子供の貧困問題が深刻化しています。
実質可処分所得が減少すると、生活費を削らざるを得なくなり、教育費や医療費などの必要な支出を抑制せざるを得ない状況に陥る可能性があります。
また、将来への不安が増加し、消費意欲が低下するなど、経済全体に悪影響を及ぼす可能性も懸念されます。
年 | エンゲル係数 |
---|---|
2000年 | 23.8% |
2010年 | 24.3% |
2020年 | 26.0% |
2021年 | 25.4% |
まとめ
実質可処分所得は、個人の生活水準の向上や経済活性化に大きく貢献する重要な指標です。
実質可処分所得の増加は、消費支出の増加、企業の売上や雇用創出、投資意欲の向上など、経済全体に好影響をもたらします。
一方で、実質可処分所得の減少は、生活水準の低下、貧困問題の深刻化、消費意欲の低下など、社会問題を引き起こす可能性があります。
3. 実質可処分所得と経済成長
実質可処分所得と消費支出
実質可処分所得は、消費支出に大きな影響を与えます。実質可処分所得が増加すると、消費者はより多くの商品やサービスを購入することができ、消費支出が増加します。
消費支出は、経済活動の重要な要素であり、消費支出の増加は、企業の売上や雇用創出につながり、経済成長を促進します。
逆に、実質可処分所得が減少すると、消費者は支出を抑制せざるを得なくなり、消費支出が減少します。消費支出の減少は、企業の売上や雇用を減少させ、経済成長を阻害する要因となります。
実質可処分所得と投資意欲
実質可処分所得は、投資意欲にも影響を与えます。実質可処分所得が増加すると、消費者は将来の生活や資産形成のために、貯蓄や投資に回せるお金が増加します。
投資意欲の向上は、企業の資金調達を容易にし、設備投資や新規事業の創出を促進します。設備投資や新規事業の創出は、生産性向上や雇用創出につながり、経済成長を促進します。
逆に、実質可処分所得が減少すると、消費者は将来への不安を感じ、貯蓄や投資を抑制する傾向があります。投資意欲の低下は、企業の資金調達を困難にし、設備投資や新規事業の創出を阻害します。
実質可処分所得と経済政策
政府は、経済成長を促進するために、様々な経済政策を実施しています。実質可処分所得の増加は、経済政策の有効性を高める上で重要な要素となります。
例えば、消費税の減税や給与所得者の所得税控除の拡大など、実質可処分所得を増やす政策は、消費支出の増加や投資意欲の向上を促し、経済成長に貢献します。
一方で、社会保険料の負担増加や消費税の増税など、実質可処分所得を減少させる政策は、消費支出の抑制や投資意欲の低下を招き、経済成長を阻害する可能性があります。
まとめ
実質可処分所得は、消費支出や投資意欲に大きな影響を与え、経済成長に重要な役割を果たします。
実質可処分所得の増加は、消費支出の増加、投資意欲の向上、企業の資金調達を容易にするなど、経済成長を促進する効果が期待できます。
政府は、経済成長を促進するために、実質可処分所得の増加を促す政策を検討する必要があります。
4. 実質可処分所得の計算方法
基本的な計算式
実質可処分所得は、以下の計算式で求めることができます。\n\n実質可処分所得 = 名目可処分所得 / 消費者物価指数\n\n* 名目可処分所得: 税金や社会保険料などを差し引いた後の所得(手取り収入)\n* 消費者物価指数: 前年比で物価がどれだけ上昇したかを表す指数
例えば、昨年の人々の平均年収が400万円だったとして、インフレに合わせ、5%、平均年収が増加したと仮定します。一方で消費者物価指数が8%増加したとします。
この条件で名目賃金、実質賃金を計算すると以下の表のようになります。\n\n| 項目 | 昨年度 | 今年度 | 昨年比の増減 |\n|—|—|—|—| \n| 名目賃金 | 400万円 | 420万円 | +20万円 |\n| 消費者物価指数 | 1 | 1.08 | +0.08(8%) |\n| 実質賃金(名目賃金/物価上昇) | 400万円 | 389万円 | -11万円 |\n\n名目賃金は20万円上がっているものの、物価の上昇率の方が高いため、実質賃金は-11万円となってしまいます。
項目 | 昨年度 | 今年度 | 昨年比の増減 |
---|---|---|---|
名目賃金 | 400万円 | 420万円 | +20万円 |
消費者物価指数 | 1 | 1.08 | +0.08(8%) |
実質賃金 | 400万円 | 389万円 | -11万円 |
国際比較
1990年からの30年間についてフランス、ドイツ、日本、イギリス、アメリカを比較した内閣府のデータを参照します。
| 国 | 1991 | 1995 | 2000 | 2005 | 2010 | 2015 | 2020 |\n|—|—|—|—|—|—|—|—| \n| フランス | 100 | 110.6 | 122.2 | 142.4 | 162.2 | 174.5 | 181.7 |\n| ドイツ | 100 | 122.5 | 131.9 | 144.5 | 156.3 | 180.4 | 200.5 |\n| 日本 | 100 | 104.5 | 105.6 | 101.6 | 96.2 | 95.4 | 100.1 |\n| イギリス | 100 | 116.9 | 147.2 | 176.5 | 203.2 | 220.7 | 243.4 |\n| アメリカ | 100 | 111.8 | 139.9 | 162.9 | 188.7 | 212.5 | 249.1 |\n\n出典:第2-1-5図 一人当たり名目賃金・実質賃金の推移 – 内閣府
欧州諸国において名目賃金が2倍(200)前後、アメリカにおいては、2.5倍(250)まで増加しています。一方で、日本においては、2020年時点で100.1と、30年かけてほとんど変化がないことがわかります。
年 | フランス | ドイツ | 日本 | イギリス | アメリカ |
---|---|---|---|---|---|
1991 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
1995 | 110.6 | 122.5 | 104.5 | 116.9 | 111.8 |
2000 | 122.2 | 131.9 | 105.6 | 147.2 | 139.9 |
2005 | 142.4 | 144.5 | 101.6 | 176.5 | 162.9 |
2010 | 162.2 | 156.3 | 96.2 | 203.2 | 188.7 |
2015 | 174.5 | 180.4 | 95.4 | 220.7 | 212.5 |
2020 | 181.7 | 200.5 | 100.1 | 243.4 | 249.1 |
国内の推移
厚生労働省のデータから2014年の数値を100とした時の値が以下になります。
| 年 | 名目賃金 | 消費者物価指数 | 実質賃金 |\n|—|—|—|—| \n| 2014 | 100 | 100 | 100 |\n| 2015 | 100.1 | 101 | 99.2 |\n| 2016 | 100.7 | 100.9 | 100.0 |\n| 2017 | 101.0 | 101.5 | 99.8 |\n| 2018 | 102.4 | 102.7 | 100.0 |\n| 2019 | 102.0 | 103.3 | 99.0 |\n| 2020 | 100.8 | 103.3 | 97.8 |\n| 2021 | 103.0 | 103.0 | 98.4 |\n| 2022 | 105.1 | 106.1 | 97.4 |\n\n出典:毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報 – 厚生労働省
2020年以降、名目賃金は上昇していますが、消費者物価指数がそれ以上に上昇しているため、2020年と比較し、2022年は実質賃金は減少しているのです。消費者物価指数の上昇の背景には、新型コロナウイルス感染症の影響やウクライナ侵攻に伴う流通の停滞や人件費の高騰、物資不足などが考えられます。
年 | 名目賃金 | 消費者物価指数 | 実質賃金 |
---|---|---|---|
2014 | 100 | 100 | 100 |
2015 | 100.1 | 101 | 99.2 |
2016 | 100.7 | 100.9 | 100.0 |
2017 | 101.0 | 101.5 | 99.8 |
2018 | 102.4 | 102.7 | 100.0 |
2019 | 102.0 | 103.3 | 99.0 |
2020 | 100.8 | 103.3 | 97.8 |
2021 | 103.0 | 103.0 | 98.4 |
2022 | 105.1 | 106.1 | 97.4 |
まとめ
実質可処分所得は、名目可処分所得を消費者物価指数で割ることで計算できます。
国際比較では、欧米諸国では名目賃金が大きく上昇している一方で、日本は30年間ほとんど変化がありません。
国内の推移では、2020年以降、名目賃金は上昇していますが、消費者物価指数の上昇率が大きいため、実質賃金は減少しています。
5. 実質可処分所得の要素
収入
収入には、大きく分けて労働収入と財産収入の2種類があります。
労働収入は、給与、賞与、退職金など、労働の対価として得られる収入です。
財産収入は、不動産、株式、債券など、保有する資産から得られる収入です。
支出
支出には、消費支出と非消費支出の2種類があります。
消費支出は、食費、住居費、教育費、娯楽費など、日常生活に必要な支出です。
非消費支出は、税金、社会保険料、住宅ローン返済など、消費とは直接関係のない支出です。
税金と社会保険料
税金と社会保険料は、実質可処分所得を大きく左右する重要な要素です。
税金は、所得税、住民税、消費税など、国や地方自治体によって課せられます。
社会保険料は、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料など、社会保障制度を維持するために支払われます。
まとめ
実質可処分所得は、収入、支出、税金、社会保険料など、様々な要素によって決まります。
これらの要素は、それぞれ複雑に関連し合っており、実質可処分所得に大きな影響を与えます。
実質可処分所得を理解するためには、これらの要素を個別に分析し、相互の関係を把握することが重要です。
6. 実質可処分所得とは所得配分の視点
所得格差と実質可処分所得
実質可処分所得は、所得格差を反映する重要な指標です。
所得格差が大きい社会では、高所得層はより多くの実質可処分所得を確保できる一方で、低所得層は生活費を削らざるを得ない状況に陥りやすく、格差が拡大する可能性があります。
実質可処分所得の格差は、社会不安や経済の停滞につながる可能性があるため、政府は所得格差の是正に向けた政策を検討する必要があります。
所得再分配と実質可処分所得
政府は、税金や社会保険料などの政策を通じて、所得再分配を行っています。
所得再分配は、高所得層から低所得層への所得移転を行うことで、所得格差を縮小し、社会全体の福祉を向上させることを目的としています。
実質可処分所得は、所得再分配政策の効果を評価する上で重要な指標となります。
消費税と実質可処分所得
消費税は、消費者に課せられる税金であり、実質可処分所得を減少させる要因となります。
消費税の増税は、低所得層への影響が大きく、生活費を圧迫し、消費支出を抑制する可能性があります。
消費税の増税は、経済成長を阻害する可能性があるため、政府は消費税の増税を行う際には、低所得層への影響を最小限に抑える対策を講じる必要があります。
まとめ
実質可処分所得は、所得格差や所得再分配、消費税などの政策と密接に関連しています。
政府は、実質可処分所得の分配を考慮し、社会全体の福祉を向上させる政策を検討する必要があります。
実質可処分所得の分析は、社会経済問題を理解し、より良い社会を実現するために不可欠です。
参考文献
・【用語解説】可処分所得とは?手取りとの違いや計算方法に …
・可処分所得とは?手取りとの違いや計算方法、推移状況 – Square
・わかりやすい用語集 解説:実質可処分所得(じっしつかしょ …
・「可処分所得」とは? 低迷する日本人の給与について考える …
・2012~2021年の家計実質可処分所得の推計 – 大和総研
・実質所得(ジッシツショトク)とは? 意味や使い方 – コトバンク
・可処分所得|用語解説|三菱ufjモルガン・スタンレー証券 …
・実質賃金と可処分所得の違いを教えて下さい。実質賃金が増加 …
・家計負担率:可処分所得は増えにくい? ~過去最高を更新して …
・実質賃金とは?意味や計算方法、直近のデータなどをわかり …
・実質可処分所得とは?株式用語解説 – お客様サポート – Dmm 株