項目 | 説明 |
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自然利子率の定義 | 経済や物価に対して中立的な実質金利 |
自然利子率の概念の歴史 | 1898年にクヌート・ビクセル氏が考案 |
自然利子率と潜在成長率 | 中長期的には潜在成長率と類似 |
自然利子率の意味 | 経済全体の需要と供給が均衡する状態での実質利子率 |
自然利子率と金融政策 | 金融政策のスタンスを判断するベンチマーク |
自然利子率と経済の安定 | 経済の安定にとって重要な指標 |
自然利子率と実質利子率の違い | 実質利子率は名目利子率から期待インフレ率を差し引いたもの |
自然利子率の計算方法 | 様々な手法・モデルによって推計 |
自然利子率の重要性 | 金融政策の決定や投資戦略の策定において重要 |
自然利子率の将来予測 | 様々な要因によって変化するため予測は困難 |
1. 自然利子率とは
自然利子率の定義
自然利子率とは、経済や物価に対して引き締め的でも緩和的でもない実質金利のことを指します。現実の実質金利が自然利子率を下回っていれば金融緩和的、上回っていれば金融引き締め的と言えます。この自然利子率に予想物価上昇率を加えたものを中立金利と呼びます。仮に中央銀行が政策金利を引き上げたとしても、その水準が中立金利を下回っている限り金融緩和的と言うことができます。そのため、景気拡大に伴って中央銀行が政策金利を引き上げていく際、もし中立金利が高い場合には引き上げ余地は大きい一方、低い場合には、引き上げ余地は限定的と考えられるでしょう。こうしたことから、中央銀行が自然利子率や中立金利の水準をどう見ているかといった点は非常に重要です。
もっとも、自然利子率は直接観測することができません。人口動態や生産性などにより決まるとされていますが、推定には困難が伴います。日本の自然利子率についての過去の研究でも▲1%~+0.5%程度とされており、かなりの幅を持ってみる必要があるでしょう。
日本銀行でも現在、自然利子率の把握のための取り組みが行われています。将来的に、日本銀行から何らかの情報発信が行われることを期待します。
この解説は2024年6月時点の情報に基づいたものです。
定義 | 説明 |
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自然利子率 | 経済や物価に対して引き締め的でも緩和的でもない実質金利 |
中立金利 | 自然利子率に予想物価上昇率を加えたもの |
自然利子率の概念の歴史
自然利子率は、1898年にスウェーデンの経済学者クヌート・ビクセル氏が考案した概念です。ビクセル氏は、経済や物価に対して緩和的でも引き締め的でもない利子率(実質金利)の水準を自然利子率と定義しました。
ビクセル氏は、自然利子率と市場利子率の乖離が物価変動の原因であると主張しました。自然利子率が市場利子率を上回ると物価が上昇し、自然利子率が市場利子率を下回ると物価が下落するという考えです。
ビクセルの自然利子率の概念は、その後、ケインズ経済学など、現代の経済学においても重要な役割を果たしています。
人物 | 内容 |
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クヌート・ビクセル | 1898年に自然利子率を考案 |
ケインズ | 現代経済学において自然利子率は重要な役割を果たす |
自然利子率と潜在成長率
自然利子率は、中長期的には潜在成長率と類似するとされており、中央銀行にとって金融政策スタンスを金融緩和的か、あるいは金融引き締め的かを判断するベンチマークの一つとなっています。
潜在成長率とは、経済が持続的に成長できる潜在的な能力を示す指標です。自然利子率は、経済が潜在成長率で成長している状態での実質金利と考えることができます。
自然利子率と潜在成長率は、経済の潜在的な能力を示す指標として、金融政策の決定に重要な役割を果たしています。
項目 | 説明 |
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自然利子率 | 経済が潜在成長率で成長している状態での実質金利 |
潜在成長率 | 経済が持続的に成長できる潜在的な能力を示す指標 |
まとめ
自然利子率は、経済や物価に対して中立的な実質金利の水準であり、経済の潜在的な成長力や消費者の時間に対する選好、生産技術の進歩などの要因によって決まります。
自然利子率は、直接観測することができないため、様々な手法による推計を基に総合的に判断することが必要です。
自然利子率は、金融政策を策定する際に重要な参考となる指標であり、中央銀行は自然利子率を参考に金融政策スタンスを決定します。
2. 自然利子率の意味と影響
自然利子率と経済の均衡
自然利子率は、経済全体の需要と供給が均衡し、物価の変動がない(インフレもデフレも起きない)状態での実質の利子率を指します。
この利子率は、経済の潜在的な成長率や消費者の時間に対する選好、生産技術の進歩などの要因によって決まります。
自然利子率は、経済の健全な均衡状態を示す指標として、金融政策の方針を決定する上で重要な参考点となります。
状態 | 説明 |
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均衡状態 | 需要と供給が均衡し、物価が安定している状態 |
自然利子率 | 均衡状態での実質利子率 |
自然利子率と金融政策
金融政策を策定する際、中央銀行はこの自然利子率を参考にします。
例えば、実際の実質利子率が自然利子率を下回る場合、それは経済の需要が供給を上回っていることを示し、インフレ圧力が高まる可能性があります。この場合、中央銀行は金融政策を引き締めるか、または現状を維持することを検討します。
逆に、実質利子率が自然利子率を上回る場合、経済の供給が需要を上回っており、デフレ圧力が高まる可能性が考えられます。この時は、金融政策の緩和が求められることがあります。
実質利子率 | 金融政策 |
---|---|
自然利子率を下回る | 金融緩和 |
自然利子率を上回る | 金融引き締め |
自然利子率と経済の安定
自然利子率は、経済の安定にとって重要な指標です。
自然利子率が適切な水準であれば、経済は安定的に成長し、インフレやデフレなどの経済的な混乱を回避することができます。
しかし、自然利子率が低下すると、経済は停滞し、デフレなどの経済的な混乱が起こる可能性があります。
自然利子率 | 経済への影響 |
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適切な水準 | 安定的な経済成長 |
低下 | 経済の停滞、デフレなどの混乱 |
まとめ
自然利子率は、経済の均衡状態を示す重要な指標であり、金融政策の決定に大きな影響を与えます。
自然利子率が適切な水準であれば、経済は安定的に成長し、インフレやデフレなどの経済的な混乱を回避することができます。
しかし、自然利子率が低下すると、経済は停滞し、デフレなどの経済的な混乱が起こる可能性があります。
3. 自然利子率と実質利子率の違い
実質利子率の定義
実質利子率とは、名目利子率から期待インフレ率を差し引いた利子率のことです。
名目利子率は、銀行などが実際に貸し出す際に提示する利子率であり、期待インフレ率は、将来の物価上昇率に対する予想です。
実質利子率は、物価変動の影響を考慮した利子率であり、投資家にとって重要な指標となります。
利子率 | 説明 |
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名目利子率 | 銀行などが実際に貸し出す際に提示する利子率 |
期待インフレ率 | 将来の物価上昇率に対する予想 |
実質利子率 | 名目利子率から期待インフレ率を差し引いた利子率 |
自然利子率と実質利子率の関係
自然利子率は、実質利子率の一種であり、経済や物価に対して中立的な水準の実質利子率です。
実質利子率が自然利子率を上回ると、経済は引き締め的な状況となり、デフレ圧力が高まる可能性があります。
逆に、実質利子率が自然利子率を下回ると、経済は緩和的な状況となり、インフレ圧力が高まる可能性があります。
実質利子率 | 経済への影響 |
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自然利子率を上回る | 引き締め的な状況、デフレ圧力 |
自然利子率を下回る | 緩和的な状況、インフレ圧力 |
実質利子率と金融政策
中央銀行は、金融政策によって実質利子率を調整し、経済を安定させようとします。
中央銀行は、実質利子率が自然利子率を上回っている場合は、金融緩和政策を実施し、実質利子率を低下させます。
逆に、実質利子率が自然利子率を下回っている場合は、金融引き締め政策を実施し、実質利子率を引き上げます。
実質利子率 | 金融政策 |
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自然利子率を上回る | 金融緩和 |
自然利子率を下回る | 金融引き締め |
まとめ
自然利子率は、経済や物価に対して中立的な水準の実質利子率であり、実質利子率は、名目利子率から期待インフレ率を差し引いた利子率です。
中央銀行は、金融政策によって実質利子率を調整し、経済を安定させようとします。
自然利子率と実質利子率の関係を理解することは、経済状況を把握し、金融政策の動向を理解する上で重要です。
4. 自然利子率の計算方法
自然利子率の推計方法
自然利子率は、直接観測することができないため、様々な手法・モデルによって推計されています。
推計手法についての確立したコンセンサスはなく、推計手法によってその結果はかなりの乖離があるため、特定の手法に基づいて推計された結果だけでその水準を測ることはできません。
よって、各中央銀行はそれぞれ異なる推計結果を見て総合的に自然利子率を判断しています。
方法 | 説明 |
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様々な手法・モデル | 直接観測できないため推計が必要 |
総合的な判断 | 推計手法によって結果が異なるため総合的に判断 |
Laubach-Williamsモデル
自然利子率の研究の第一人者は、米国(アメリカ)のジョン・ウィリアムズ氏です。
ウィリアムズ氏は、フィリップス曲線を含めた状態空間モデル(カルマン・フィルター)を用いて自然利子率、潜在成長力、潜在成長率を同時推計する方法であるLaubach-Williamsモデルを開発しました。
Laubach-Williamsモデルは、世界的に自然利子率の推計方法として広く用いられており、その推計値は市場で最も注目されています。
モデル | 説明 |
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Laubach-Williamsモデル | フィリップス曲線を含めた状態空間モデル |
推計値 | 市場で最も注目されている |
自然利子率推計の課題
自然利子率は、過去に遡って大幅に修正されやすい点に注意が必要です。
過去に遡って0.5-1.0%程度の修正は当たり前のようにありますし、公表とともにこれまでの推移の景色がガラッと変わることも十分ありますので、かなり幅をもって見る必要があります。
また、自然利子率はモデルによっても値がかなり異なるため、大まかに見る必要があります。
課題 | 説明 |
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過去の修正 | 過去に遡って大幅に修正される場合がある |
モデルによる差異 | モデルによって推計値が異なる |
まとめ
自然利子率は、直接観測することができないため、様々な手法・モデルによって推計されています。
Laubach-Williamsモデルは、自然利子率の推計方法として広く用いられていますが、推計値はモデルや手法によって異なるため、幅をもって見る必要があります。
自然利子率の推計は、経済状況を把握し、金融政策の動向を理解する上で重要ですが、推計値には不確実性があることを理解しておく必要があります。
5. 自然利子率の重要性
金融政策における自然利子率
自然利子率は、金融政策を策定する際に重要な参考となる指標です。
中央銀行は、自然利子率を参考に、金融政策スタンスを決定します。
自然利子率が適切な水準であれば、経済は安定的に成長し、インフレやデフレなどの経済的な混乱を回避することができます。
役割 | 説明 |
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金融政策の参考指標 | 金融政策スタンスを決定する際に重要 |
適切な水準 | 経済の安定的な成長に貢献 |
自然利子率と経済の安定
自然利子率は、経済の安定にとって重要な指標です。
自然利子率が適切な水準であれば、経済は安定的に成長し、インフレやデフレなどの経済的な混乱を回避することができます。
しかし、自然利子率が低下すると、経済は停滞し、デフレなどの経済的な混乱が起こる可能性があります。
自然利子率 | 経済への影響 |
---|---|
適切な水準 | 安定的な経済成長 |
低下 | 経済の停滞、デフレなどの混乱 |
自然利子率と経済政策の有効性
自然利子率は、金融政策の有効性を判断する上で重要な指標です。
自然利子率が低下すると、金融政策の効果が減退する可能性があります。
これは、自然利子率が低下すると、市場金利を大幅なマイナスにできない限り、金融緩和による景気刺激効果は大きく減殺されてしまうためです。
自然利子率 | 金融政策への影響 |
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低下 | 金融政策の効果が減退する可能性 |
適切な水準 | 金融政策の効果が期待できる |
まとめ
自然利子率は、金融政策を策定する際に重要な参考となる指標であり、経済の安定にとって重要な指標です。
自然利子率が適切な水準であれば、経済は安定的に成長し、インフレやデフレなどの経済的な混乱を回避することができます。
しかし、自然利子率が低下すると、経済は停滞し、デフレなどの経済的な混乱が起こる可能性があります。また、金融政策の効果が減退する可能性もあります。
6. 自然利子率の将来予測
自然利子率の将来予測の難しさ
自然利子率は、様々な要因によって変化するため、将来を予測することは非常に困難です。
自然利子率に影響を与える要因としては、技術進歩、人口動態、金融仲介活動の機能度、政府の政策などがあります。
これらの要因は、複雑に相互作用し、将来を予測することは容易ではありません。
要因 | 説明 |
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技術進歩 | 予測が難しい |
人口動態 | 予測が難しい |
金融仲介活動の機能度 | 予測が難しい |
政府の政策 | 予測が難しい |
自然利子率の将来予測の重要性
自然利子率の将来予測は、金融政策の決定や投資戦略の策定において重要です。
自然利子率が上昇すると予想される場合は、金融政策を引き締めたり、長期債券などの利回り上昇を見込んだ投資戦略を立てることが考えられます。
逆に、自然利子率が低下すると予想される場合は、金融政策を緩和したり、低利回り債券などの投資戦略を立てることが考えられます。
予測 | 影響 |
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上昇 | 金融政策引き締め、長期債券などの利回り上昇を見込んだ投資戦略 |
低下 | 金融政策緩和、低利回り債券などの投資戦略 |
自然利子率の将来予測の注意点
自然利子率の将来予測は、あくまでも予想であり、必ずしも的中するとは限りません。
自然利子率は、様々な要因によって変化するため、予測が難しいだけでなく、予測が的中する可能性も低いと言えます。
そのため、自然利子率の将来予測は、あくまでも参考として、様々な情報を総合的に判断する必要があります。
注意点 | 説明 |
---|---|
予想であること | 必ずしも的中するとは限らない |
様々な要因の影響 | 予測が難しい |
総合的な判断 | 様々な情報を総合的に判断する必要がある |
まとめ
自然利子率の将来予測は、非常に困難ですが、金融政策の決定や投資戦略の策定において重要です。
自然利子率の将来予測は、あくまでも予想であり、必ずしも的中するとは限りません。
自然利子率の将来予測は、様々な情報を総合的に判断し、幅をもって考える必要があります。
参考文献
・(リサーチラボ)わが国の自然利子率の決定要因 : 日本銀行 …
・自然利子率(しぜんりしりつ)とは? 意味や使い方 – コトバンク
・【1分解説】自然利子率、中立金利とは? | 新家 義貴 | 第一 …
・自然利子率(しぜんりしりつ) | 証券用語集 | 東海東京証券株式会社
・自然利子率r*に振り回される日米金融市場|株式会社伊藤忠総研