1. 個別格付けとは
個別格付けとは何か?
個別格付けとは、債券発行時にそれぞれの債券の元利払いの確実性に対して付与される格付けのことです。債券の発行元である国や企業などの発行体の債務履行能力を評価したものは発行体格付けといいます。
格付けは、格付け会社が発行体や債券の信用リスクを客観的に示してランク付けしたものです。格付けが高いほどリスクは低く、低いほどリスクが高くなります。
信用リスクとは、国や企業が財政難、経営不振などの理由により、利息や元本などをあらかじめ決められた条件で支払うことができなくなること(債務不履行)が起こる可能性のことです。
格付けは、格付け会社が付与します。格付け会社で代表的なのは『S&P』・『Moody’s(ムーディーズ)』・『Fitch(フィッチ)』で3代格付け会社と言います。最大手は『S&P』で、一般的に格付けというとS&Pの格付けを指すことが多いです。
格付けの表示方法
格付けは、アルファベットや「+と-」数字などの組み合わせによって表示されます。表示方法は格付機関によって異なります。
例えば、S&Pでは、AAAが最も高く、AA、A、BBBと続きます。BBB-以上の格付けを投資適格と言います。社債や発行体の債務不履行(デフォルト)リスクが低く、信用力が高いとされています。
逆にBBB-以下の格付けを投機的格付けと言います。投資適格と比べて、債務不履行(デフォルト)リスクが高く信用力が低いとされています。格付けが低いほど利回りは高くなります。日本の有名企業だと日産自動車やソフトバンクグループ、楽天グループなどが当てはまります。
格付けは、発行体(国や企業)の財務状況まで考慮した信用力(債務履行能力)を示したものです。
格付け | 説明 |
---|---|
AAA | 最も信用力が高い |
AA | 非常に信用力が高い |
A | 信用力が高い |
BBB | 信用力は十分だが、注意が必要 |
BB | 信用力は当面問題ないが、注意が必要 |
B | 信用力に問題あり、注意が必要 |
CCC | 債務不履行の懸念が強い |
CC | 債務不履行の懸念が極めて強い |
C | 債務不履行が確実 |
債券格付け
⚠️あくまで発行体のリスクのみを反映した格付けで、債券投資のリスクを示したものではありません。
一般的に、格付けの高い債券はリスクも低いため利回りは低く、格付けの低い債券はリスクが高いため利回りは高くなります。
発行体の信用リスク」+「債券種類のリスク」で考えると分かりやすく、債券自体のリスクを示したものを債券格付けと言います。債券の種類に普通社債・劣後債・永久劣後債・CoCo債があります。
⭕️ 発行体格付けが同じでも、リスクの高い債券の場合の場合、債券格付けは低くなります。
債券の種類 | リスク | 利回り |
---|---|---|
普通社債 | 低 | 低 |
劣後債 | 中 | 中 |
永久劣後債 | 高 | 高 |
CoCo債 | 高 | 高 |
まとめ
個別格付けは、債券の発行元である国や企業などの発行体の債務履行能力を評価したものです。
格付けは、格付け会社が発行体や債券の信用リスクを客観的に示してランク付けしたものです。
格付けが高いほどリスクは低く、低いほどリスクが高くなります。
債券投資をする際は、債券自体のリスクを示している債券格付けを見ましょう。
2. 個別格付けの歴史
格付けの起源
格付けの起源は、19世紀後半のアメリカに遡ります。当時、鉄道建設が盛んでしたが、投資家は鉄道会社の財務状況や経営能力を把握することが難しく、投資判断に困っていました。
そこで、ヘンリー・バーナム・プアーという人物が、鉄道会社の財務状況や経営能力を分析したレポートを出版しました。これが、格付けの始まりと言われています。
その後、格付けは、鉄道会社だけでなく、他の企業や国債にも広がっていきました。
20世紀初頭には、ジョン・ムーディーが、鉄道会社の債券の信用分析を始めたことが、現在の格付け会社であるムーディーズの起源となっています。
格付けの進化
20世紀中盤には、格付けは、企業の財務状況だけでなく、経営戦略や業界構造なども考慮されるようになりました。
また、格付け会社は、世界中に進出し、グローバルな格付けを提供するようになりました。
2000年代後半には、サブプライムローン問題が表面化し、格付けの信頼性が揺らぎました。
格付け会社は、より厳格な格付け基準を導入し、規制当局の監督も強化されました。
日本の格付け
日本では、1980年代に格付け制度が導入されました。
当初は、外資系の格付け会社が中心でしたが、その後、国内の格付け会社も設立されました。
現在、日本では、格付投資情報センター(R&I)と日本格付研究所(JCR)が、主要な格付け会社となっています。
2010年には、金融商品取引法が改正され、格付け会社の登録制度が導入されました。
まとめ
格付けは、19世紀後半にアメリカで誕生し、その後、世界中に広がっていきました。
格付けは、当初は鉄道会社の財務状況を分析したものですが、その後、企業の経営戦略や業界構造なども考慮されるようになりました。
2000年代後半のサブプライムローン問題をきっかけに、格付けの信頼性が揺らぎ、格付け会社はより厳格な格付け基準を導入し、規制当局の監督も強化されました。
日本では、1980年代に格付け制度が導入され、現在では、格付投資情報センター(R&I)と日本格付研究所(JCR)が、主要な格付け会社となっています。
3. 個別格付けの重要性
投資判断の材料
個別格付けは、投資家にとって、債券投資の判断材料の一つとなります。
格付けは、債券の発行元である国や企業の債務履行能力を評価したものです。
格付けが高いほど、債務不履行のリスクが低く、投資家にとって魅力的な債券と言えます。
逆に、格付けが低いほど、債務不履行のリスクが高く、投資家にとってリスクの高い債券と言えます。
債券の価格決定
格付けは、債券の価格決定にも影響を与えます。
格付けが高い債券は、リスクが低いため、投資家は低い利回りでも購入しようとします。
そのため、格付けの高い債券は、格付けの低い債券よりも、価格が高くなります。
逆に、格付けが低い債券は、リスクが高いので、投資家は高い利回りを要求します。そのため、格付けの低い債券は、格付けの高い債券よりも、価格が低くなります。
市場の透明性
格付けは、債券市場の透明性を高める役割も果たしています。
格付けによって、債券の信用リスクが明確化され、投資家は、債券の価値をより正確に判断できるようになります。
また、格付けは、債券市場の効率性を高める役割も果たしています。
格付けによって、債券の価格がより適切に決定され、債券の売買が円滑に行われるようになります。
まとめ
個別格付けは、投資判断の材料、債券の価格決定、市場の透明性という重要な役割を果たしています。
投資家は、格付けを参考に、債券投資のリスクとリターンを判断することができます。
格付けは、債券市場の効率性と透明性を高める役割も果たしています。
格付けは、債券投資を行う上で、欠かせない情報となっています。
4. 個別格付けの方法
格付け会社による分析
格付け会社は、発行体の財務状況、経営状況、業界構造、経済状況などを分析して、格付けを決定します。
分析には、財務諸表の分析、経営者のインタビュー、業界調査などが含まれます。
格付け会社は、独自の格付け基準に基づいて、格付けを決定します。
格付け基準は、格付け会社によって異なります。
格付けの変更
格付けは、発行体の財務状況や経営状況が変化すると、変更されることがあります。
格付けが変更されると、債券の価格や利回りが変化します。
格付けが変更される要因としては、以下の様なものが挙げられます。
・発行体の業績悪化 ・発行体の財務状況の悪化 ・発行体の経営戦略の変化 ・経済状況の変化
要因 | 説明 |
---|---|
発行体の業績悪化 | 企業の業績が悪化し、債務返済能力が低下する可能性が高まる |
発行体の財務状況の悪化 | 借金が増加したり、資産価値が減少したりして、債務返済能力が低下する可能性が高まる |
発行体の経営戦略の変化 | 事業の縮小や新規事業への投資など、経営戦略が変化することで、債務返済能力が変化する可能性がある |
経済状況の変化 | 景気後退や金利上昇など、経済状況が変化することで、債務返済能力が変化する可能性がある |
格付けの透明性
格付け会社は、格付けの透明性を高めるために、格付け基準や格付けプロセスを公開しています。
格付け基準や格付けプロセスが公開されることで、投資家は、格付けがどのように決定されたのかを理解することができます。
また、格付け会社は、格付けに関する情報を定期的に公表しています。
格付けに関する情報が公表されることで、投資家は、格付けの最新情報を入手することができます。
まとめ
個別格付けは、格付け会社が発行体の財務状況、経営状況、業界構造、経済状況などを分析して、決定されます。
格付けは、発行体の状況が変化すると、変更されることがあります。
格付け会社は、格付けの透明性を高めるために、格付け基準や格付けプロセスを公開しています。
投資家は、格付け会社が公開している情報を通じて、格付けについて理解を深めることができます。
5. 個別格付けの種類
発行体格付け
発行体格付けとは、債券の発行元である国や企業などの発行体の債務履行能力を評価したものです。
発行体格付けは、発行体が負うすべての金融債務についての総合的な債務履行能力に対する格付け会社の意見です。
発行体格付けは、原則としてすべての発行体に付与されます。
発行体格付けは、債券の種類や条件、倒産や清算の際の順位付け、法律上の優先的な地位、合法性や強制力は勘案しておらず、個々の金融債務に対するものではありません。
格付け | 説明 |
---|---|
AAA | 信用力は最も高く、多くの優れた要素がある |
AA | 信用力は極めて高く、優れた要素がある |
A | 信用力は高く、部分的に優れた要素がある |
BBB | 信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある |
BB | 信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある |
B | 信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある |
CCC | 債務不履行に陥っているか、またはその懸念が強い |
CC | 発行体のすべての金融債務が不履行に陥る懸念が強い |
C | 発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付 |
個別債務格付け
個別債務格付けとは、個々の債券の債務履行能力を評価したものです。
個別債務格付けは、発行体格付けを元にしていますが、必ずしも同一になるわけではありません。
例えば、劣後債のように弁済順位が異なる債券は、元利金が満額回収できないリスクを加味して格付けが付与されるためです。
個別債務格付けは、債券の種類や条件、倒産や清算の際の順位付け、法律上の優先的な地位、合法性や強制力を考慮して、格付けが決定されます。
短期格付け
短期格付けは、短期(償還まで1年以内)の金融債務が約定通りに履行される確実性についての格付け会社の意見です。
短期格付けは、コマーシャルペーパーなどの短期プログラムや短期金融債務の支払能力などに付与します。
短期格付けでは短期の金融債務が約定通りに履行される確実性を評価し、債務不履行時の損失の可能性は反映していません。
短期格付けは、長期格付けと比べて、格付けの変更が頻繁に行われる傾向があります。
まとめ
個別格付けには、発行体格付け、個別債務格付け、短期格付けなどがあります。
発行体格付けは、発行体の債務履行能力を総合的に評価したものです。
個別債務格付けは、個々の債券の債務履行能力を評価したものです。
短期格付けは、短期の金融債務が約定通りに履行される確実性を評価したものです。
6. 個別格付けの将来性
ESG投資の台頭
近年、ESG投資が注目されています。ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮した投資のことです。
ESG投資は、企業の社会的責任や持続可能性を重視する投資家にとって、重要な投資基準となっています。
格付け会社は、ESG要素を格付けに組み込み始めています。
今後、ESG要素を考慮した格付けが、ますます重要になっていくと考えられます。
テクノロジーの進化
AIやビッグデータなどのテクノロジーの進化は、格付けの精度向上に貢献すると期待されています。
AIやビッグデータを用いることで、格付け会社は、より多くのデータを分析し、より精度の高い格付けを決定できるようになります。
また、テクノロジーの進化は、格付けのプロセスを効率化し、格付けコストを削減する可能性もあります。
今後、テクノロジーを活用した格付けが、ますます普及していくと考えられます。
格付けの多様化
従来の格付けは、主に財務状況に基づいて行われてきました。
しかし、近年では、ESG要素や非財務情報も考慮した格付けが登場しています。
今後、格付けは、より多様化していくと考えられます。
投資家は、自分の投資スタイルや価値観に合った格付けを選択できるようになります。
まとめ
個別格付けは、ESG投資の台頭、テクノロジーの進化、格付けの多様化など、様々な変化に直面しています。
今後、個別格付けは、より精度の高い、より多様なものになっていくと考えられます。
投資家は、個別格付けを参考に、より適切な投資判断を下せるようになるでしょう。
個別格付けは、今後も、債券投資にとって重要な役割を果たしていくと考えられます。
参考文献
・格付けとは?格付け会社や日本国債などの格付けを詳しく解説 …
・社債の格付けはなぜ必要なのか?投資判断への用い方と格付 …
・格付 | 初心者でもわかりやすい金融用語集 | マネクリ …
・信用格付けは”絶対”なのか? 債券を評価する「格付け機関 …
・信用格付けとは【信用格付け会社、ランク別評価内容の一覧 …
・日本で登録された格付け機関の仕組みと特徴を徹底解説 | 投資 …
・格付とは? 格付会社の信用格付で社債が投資適格かどうかが …
・債券の「格付け」について教えてください|投資の時間|日本 …
・サステナブル/ESG投資時代における企業とサステナビリティ格付け