1. 第1回AA型種類株式とは
2015年7月24日、トヨタ自動車株式会社は「第1回AA型種類株式」を発行しました。これは、従来の普通株式とは異なる特徴を持つ、新しい種類の株式です。AA型種類株式は、トヨタが社会と地球環境に貢献する最先端の次世代技術を生み続けるために、研究開発資金を調達することを目的として発行されました。
1-1. AA型種類株式の発行背景
トヨタは、中長期的な企業価値向上のため、次世代技術への投資を強化することを目指していました。そのため、従来の短期的な視点での資金調達ではなく、中長期的な視点での資金調達方法が必要と考えました。そこで、中長期の保有を前提とするAA型種類株式を発行することにしたのです。
AA型種類株式発行の背景には、下記のような課題と目的がありました。
加速する技術革新に対応するための次世代技術創造への投資: コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化といった、「CASE」と呼ばれる新しい領域への投資、次世代環境車の開発、異業種も含めた様々なパートナーとのアライアンスなど、未来への投資を強化する必要がありました。
製品の企画から製造・販売に至るまでの事業サイクルにあわせた研究開発投資: 従来のビジネスモデルでは、短期的な視点での資金調達では、研究開発への長期的な投資が難しく、事業サイクルに合わせた投資を行うことが困難でした。
持続的成長を実現するための競争力強化: グローバルな競争環境の中で、持続的な成長を実現するためには、革新的な技術を生み出し続けることが重要でした。
1-2. AA型種類株式の発行目的
AA型種類株式の発行目的は、以下の3つにまとめられます。
中長期株主層の形成: 中長期的な視点でトヨタを支え、経営に参画する新たな株主層を開拓すること。
中長期視点での研究開発投資: 研究開発投資資金が業績に寄与する期間と、投資期間を合わせた投資機会を提供し、長期的な研究開発を支援すること。
グローバル・ビジョンの実現: 未来のモビリティ社会を実現するために、中長期的な視点で投資を推進し、革新的な技術開発を進めること。
1-3. AA型種類株式の特徴
AA型種類株式は、従来の普通株式とは異なる特徴を持っています。主な特徴は以下のとおりです。
議決権付き: 1単元(100株)以上のAA型種類株式を保有する株主は、株主総会において議決権を行使できます。
配当: 配当は累積型で、非参加型となります。配当率は、初年度は発行価格の年0.5%で、5年後以降の年2.5%まで段階的に上がります。
譲渡制限: AA型種類株式は、原則として譲渡が制限されています。発行から5年間は譲渡が禁止され、その後も当社取締役会の承認が必要となります。
転換請求権: 発行後概ね5年後以降、株主はAA型種類株式を普通株式に転換することができます。
金銭対価の取得請求権: 発行後概ね5年後以降、株主はAA型種類株式を発行価格で換金することができます。
金銭対価の取得条項: 会社は、発行後概ね5年後以降、AA型種類株式を発行価格で買い取ることができます。
1-4. まとめ
トヨタ自動車が発行した「第1回AA型種類株式」は、従来の普通株式とは異なる特徴を持つ、新しい種類の株式です。中長期的な視点で投資を行い、経営に参画する新たな株主層を開拓することを目的としていました。AA型種類株式は、トヨタの未来への投資を加速させるための重要な役割を果たすものとして期待されていました。
トヨタは、2021年4月2日に、第1回AA型種類株式をすべて取得し、4月3日に消却しました。これは、AA型種類株式が当初の目的を果たしたと判断したためです。
AA型種類株式は、日本企業が発行した種類株式としては、初めての試みでした。トヨタの取り組みは、今後、他の企業にとっても参考になる可能性があります。
参考文献
・トヨタ、第1回aa型種類株式の取得、消却を決定 | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト
・トヨタ、種類株を取得して消却へ 取得総額は約5000億円 – 日本経済新聞
2. AA型株の特徴
2-1. 固定配当と累積条項
トヨタ自動車が発行した第1回AA型種類株式は、一般的な株式とは異なる特徴を持つ種類株式です。その最大の特徴は、固定配当と累積条項です。
まず、配当についてですが、AA型株は発行価格に応じて配当金が固定されています。発行価格が1株1万円の場合、1年目は5千円、2年目は1万円、3年目は1万5千円、4年目は2万円、5年目以降はずっと2万5千円という具合です。これは、トヨタの業績が右肩上がりとなっても、逆に業績が悪化して減配となっても、配当率は固定されることを意味します。
加えて、AA型株には累積条項が存在します。これは、何らかの事情でトヨタが予定していた配当を行わなかった場合でも、払われなかった分は次年度以降に累積され、金銭による剰余金の配当が行われるというものです。例えば、ある年度に業績悪化で配当が0.5%しか行われなかった場合でも、本来支払われるべきだった残りの2%分の配当は次年度以降に累積されて支払われます。
固定配当と累積条項によって、AA型株は安定的な収入源として魅力的に映るかもしれません。しかし、一方で潜在的なリスクも存在します。それは、トヨタの業績が順調に推移し、普通株の配当利回りがAA型株の配当率を上回った場合、AA型株の保有者は損失を被る可能性があるという点です。例えば、トヨタの業績が右肩上がりとなり、普通株式の株価が120万円・配当利回り2.5%となった場合、普通株の配当は3万円となりますが、AA株式は最大2万5千円です。
2-2. 譲渡制限と買い戻し条項
AA型株には譲渡制限が設けられており、原則として5年間は売却できません。これは、長期保有を促すための措置であり、トヨタの経営に長期的な視点で関与してもらうことを目的としています。
ただし、自然災害や破産等のやむを得ない理由によって換金する必要がある場合は、トヨタの取締役会による承認を得て、野村證券へ売却することが可能です。しかし、売却価格については野村證券と合意する必要があるため、手数料を多く取られる可能性があります。
また、トヨタは5年経過後には、年4回、発行価格プラス経過配当分で買い戻し請求を行うことができます。つまり、5年経過すれば、元本保証となるわけです。ただし、5年以内にトヨタが破綻した場合、買い戻し請求はできず、投資資金が失われる可能性もあります。
さらに、トヨタは5年経過後には、年2回、発行価格で普通株式に転換することもできます。これは、トヨタの株価が購入額以上に上昇した場合、株価上昇の果実を享受できる可能性があることを意味します。
2-3. 税務上の取扱い
AA型株は、非上場株式であるため、税務上の取扱いは上場株式とは異なります。
AA型株の配当所得は、総合課税の対象となります。これは、他の所得と合算して課税されることを意味します。所得が多い人にとっては、税率が高くなる可能性があるため、普通株式と比較して大きなデメリットとなります。
また、AA型株は特定口座やNISA口座に組み入れることはできません。これは、確定申告が必要になる可能性があるため、自分で計算する必要があるというデメリットがあります。
2-4. まとめ
トヨタ自動車第1回AA型種類株式は、固定配当と累積条項、譲渡制限や買い戻し条項など、独自の制度設計を採用した新しいタイプの株式です。長期的な視点でトヨタの成長に貢献したいと考える投資家にとって魅力的な商品である一方、税務上のデメリットや潜在的なリスクも存在します。
投資を検討する際は、これらの特徴やリスクを十分に理解した上で、自身の投資目的やリスク許容度に合わせて判断することが重要です。
参考文献
・トヨタ自動車が第1回AA型種類株式を発行!評判・口コミは?税制・メリット・デメリットまとめ – The Goal
・トヨタ、第1回AA型種類株式の取得・消却を決定 – Car Watch
・トヨタ、第1回aa型種類株式を残存取得・消却総額4779億円 | Next Mobility | ネクストモビリティ
3. 第1回AA型株発行の背景
3-1. 低金利時代の長期安定経営への課題
2015年7月、トヨタ自動車は、従来の普通株式とは異なる「AA型種類株式」を発行しました。このAA型株は、発行価格が普通株式よりも20%以上高く設定されたにもかかわらず、5年以上保有すれば発行価格でトヨタに買い取りを請求できることや、5年間平均で年1.5%の予想配当利回りが見込まれることから、個人投資家を中心に大きな注目を集めました。
では、なぜトヨタは、従来の株式とは異なるAA型株という新しい種類の株式を発行することにしたのでしょうか?その背景には、低金利時代における長期安定経営への課題がありました。
長らく安定した経営を続けてきたトヨタですが、2010年代に入ると、世界的な低金利化や原油価格の変動、新興国経済の減速など、経営環境は大きく変化しました。特に低金利環境は、企業にとって資金調達コストの低下というメリットがある一方で、長期投資の収益性低下の問題も抱えていました。
トヨタは、燃料電池車や自動運転など、将来に向けた研究開発や投資には長期的な資金が必要となる一方で、低金利時代においては、株主への安定的なリターン確保が課題となっていました。
3-2. 長期保有株主の獲得を目指した戦略
トヨタは、このような状況下で、長期安定経営を維持し、将来に向けた投資を継続していくために、長期的な視点で経営を支えてくれる株主を獲得することが重要だと考えました。
そこで、トヨタは、従来の株式とは異なる、長期保有を促す仕組みを持つAA型株を発行することにしました。AA型株は、発行価格が普通株式よりも高い一方で、5年以上保有すれば発行価格で買い取ってもらうことができるため、投資家にとって長期保有するインセンティブが強くなります。
また、トヨタはAA型株に対して、5年間平均で年1.5%の予想配当利回りも見込んでおり、これは当時の債券の利回りを大きく上回るものでした。債券の利回りが低下する中で、投資家にとって魅力的な選択肢となり、長期保有を促進する効果が期待されました。
3-3. 長期投資への意欲を高めるための工夫
AA型株は、単に長期保有を促すだけでなく、投資家にとってより魅力的な仕組みが採用されています。
例えば、AA型株は、保有期間に応じて、配当利回りが段階的に上昇していく仕組みとなっています。これは、長期保有するほど、投資家へのリターンが大きくなることを意味し、長期投資への意欲を高める効果が期待されています。
また、AA型株は、トヨタの経営状況が好転した場合には、発行価格よりも高い価格で買い取ってもらうことができる可能性も秘めています。これは、投資家にとって、将来的なリターンへの期待を高める要素となります。
3-4. まとめ
トヨタの第1回AA型株発行は、低金利時代における長期安定経営を維持し、将来に向けた投資を継続していくための戦略的な取り組みと言えます。
AA型株は、長期保有を促す仕組みや、投資家にとって魅力的なリターン設計により、長期的な視点で経営を支えてくれる株主を獲得することを目指していました。トヨタは、このAA型株の発行を通して、長期投資家との関係を強化し、持続的な成長を図ることを目指しています。
トヨタのAA型株発行は、企業にとって長期安定経営の重要性や、長期投資家との関係構築の必要性を示すものであり、今後の企業の資金調達戦略において参考になる事例と言えるでしょう。
参考文献
・トヨタ自動車第1回aa型種類株式 | 金融・証券用語解説集 | 大和証券
・トヨタ自動車第1回aa型種類株式とは?株式用語解説 – お客様サポート – Dmm 株
・わかりやすい用語集 解説:トヨタ自動車第1回aa型種類株式(とよたじどうしゃだいいっかいえーえーがたしゅるいかぶしき)
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