哺乳類:イノシシについて説明

イノシシの生態と人間との関係
項目 内容
身体的特徴 体長: 雄110~170cm、雌100~150cm、体重: 80~190kg、牙: 雄は長く発達、雌は短い
感覚器官 嗅覚: 優れている、視覚: 弱い、聴覚: 良い
行動 泥浴び、木への擦りつけ、泳ぎ、冬眠はしない
生息環境 里山の雑木林、耕作放棄地、道路の法面、河川の緑地帯
分布 北海道を除く46都府県に分布、近年拡大傾向
食性 雑食性、植物質中心、ドングリ、タケノコ、イモ類、農作物を食べる
繁殖 交尾期: 12~2月、出産期: 4~6月、1度に4~5頭出産
子育て 母親と子でグループを形成、オスは単独行動、幼獣はウリ坊と呼ばれる
人間との関係 古くから食料源、近年は農作物被害や人身事故が発生、保護と狩猟管理が課題
保護と狩猟管理 鳥獣保護管理法で狩猟鳥獣に指定、生息環境の保全と適切な狩猟管理が必要

1. イノシシの生態とは

要約

1-1. イノシシの身体的特徴

イノシシは、偶蹄目イノシシ科に属する哺乳類で、体長は雄で110~170cm、雌で100~150cm、肩高は60~90cm、尾長は30~40cm、体重は80~190kgにもなります。雌は雄よりも小さく、性的二型が見られます。全身は茶褐色から黒褐色の剛毛で覆われており、指は前後ともに4本で、2個の蹄を持ちます。雌雄共に下顎の犬歯が発達して牙状になっており、雄の牙は特に長く、生後1年半ほどで確認できるようになり、半月型に曲がった形で終生成長を続け、最大で15cmほどまでになります。上顎の犬歯も大きく、それが擦り合わさるよう下顎の犬歯が生えているため、常に研磨された状態の牙は非常に鋭いです。ただし、この牙は後方に湾曲しているため、攻撃用というよりもむしろ護身用であると考えられています。湾曲の度合いもブタと比べると緩いです。

日本産のイノシシは、大陸種に比べて短足であるといわれています。犬歯を除く歯は一度生え変わりますが、犬歯だけは歯根が無く一生伸び続けます。歯の大きさ、特に臼歯の大きさには地域性があり、現生個体や遺跡の歯の分析から過去に人為的な移動があったのではないかと推測されています。

幼獣は毛並みの模様がある種のウリの実の模様に似ているためウリ坊と呼ばれます。熱帯雨林に住む鳥類のヒクイドリの幼鳥がそっくりな模様をしており、森林の中で目立たない収斂進化の一種だと見られています。

イノシシの身体的特徴
項目 内容
体長 雄: 110~170cm、雌: 100~150cm
体重 80~190kg
雄: 長く発達、雌: 短い
体毛 茶褐色から黒褐色の剛毛
前後4本、2個の蹄を持つ

1-2. イノシシの感覚器官

イノシシの嗅覚は非常に優れており、多くの匂いに誘引性を示します。脳の反応を観察したところ、イノシシが家畜化されブタになった際に嗅覚の一部を失ったといい、野生化したブタは一部の機能がイノシシ並みに回復するが、完全には回復しないという研究結果があります。多くの野生動物と同じく山火事と関連がある焦げた匂いを嫌うという報告もあります。鼻は匂いを嗅ぐだけでなく、鼻で触ることで物の感覚も確かめられます。また、上半身の力は強く数十kg程度のものなら鼻で押しのけてしまうほどです。

聴覚も良く超音波も聞き取ることが出来ますが忌避反応は示さないという報告があります。麻布大学獣医学部講師の実験により200〜500Hzの音に逃避反応を示すことが報告されています。

反対に視力は0.1以下で100m程度が視認範囲とされ、眼球が顔の側面にあるため立体視は不得意とされています。奥行の把握が苦手であることから、身体能力的には飛び越えられる1m程度の障害物でも設置次第では飛び越えられないという報告があります。障害物が飛び越えられる高さであっても、飛び越えるより潜ることを好む行動が観察されるという研究結果もあります。

イノシシの感覚器官
項目 内容
嗅覚 優れている
視覚 弱い
聴覚 良い

1-3. イノシシの行動

イノシシはよく泥浴びを行います。泥浴・水浴後には体を木に擦りつける行動も度々観察されます。特にイノシシが泥浴を行う場所は「沼田場(ヌタバ)」と呼ばれ、イノシシが横になり転がりながら全身に泥を塗る様子から、苦しみあがくという意味のぬたうちまわる(のたうちまわる)という言葉が生まれたと言われています。一般にこれは寄生虫を落としたり、体温調節をしていると考えられています。ヌタバに来る動物の目的は様々でタヌキやアナグマのように餌探しのものから、ニホンジカのメスなどは恐らく水分と塩分の補給に来ているという報告があります。イノシシの雄が泥浴をするのは繁殖前となる秋が多く、しかも泥浴するのは大きな個体が多いことから寄生虫や体温調節だけでなく繁殖的な意味があるのではという説が提唱されています。

泳ぎは得意であり、波の穏やかな内海や湖などでは泳ぐ姿がしばしば目撃されます。1990年代以降でも瀬戸内海や長崎県五島の島では海を渡ってきたと見られる個体群の新規定着事例が報告されています。

低温期でも冬眠は行いません。このことが分布の北限を決めているのではという説があります。

イノシシの行動
行動 特徴
泥浴び 寄生虫の除去や体温調節
木への擦りつけ 泥や寄生虫を落とす
泳ぎ 得意
冬眠 しない

1-4. まとめ

イノシシは、その特徴的な外見と行動から、古くから人々の注目を集めてきました。鋭い牙を持つ一方で、臆病で注意深い性格を持ち、雑食性で様々な環境に適応できる能力を持っています。また、泥浴びや木への擦りつけなど、独特な行動パターンも観察されています。

イノシシの生態を理解することは、彼らとの共存を図る上で非常に重要です。特に、イノシシの行動範囲や食性、繁殖行動などを理解することで、人身事故や農作物被害を減らすための対策を立てることができます。

イノシシは、人間にとって脅威となる側面も持ち合わせていますが、同時に自然生態系の中で重要な役割を担っています。彼らの生態を理解し、尊重することで、人間とイノシシが共存できる未来を築くことができるでしょう。

2. イノシシの生息地

要約

2-1. イノシシの生息環境

イノシシは、一般的に農耕地と樹林帯が混在する里山の雑木林などを好むとされています。身体を隠すことができる草むらや藪、耕作放棄地を好んで利用します。手入れがされていない道路の法面や、河川の緑地帯はイノシシの移動ルートとして利用されやすいです。

イノシシは、食物や水のある場所、茂みなど隠れるところのある場所や、人間活動の少ない場所を好みます。

イノシシの分布は年々広がってきており、1978年から2014年までの36年間でイノシシの生息域は約1.7倍に拡大しています。

イノシシの生息環境
場所 特徴
里山の雑木林 身体を隠せる草むらや藪がある
耕作放棄地 食物や隠れ場所がある
道路の法面 移動ルートとして利用しやすい
河川の緑地帯 移動ルートとして利用しやすい

2-2. 日本のイノシシの分布

日本では、東北地方以南の本州、また南西諸島に分布しています。対馬では対馬藩による駆除活動により1709年(宝永9年)に絶滅しましたが、1995年に再び捕獲され、2011年には捕獲頭数が1万頭を超えました。東北地方では1900年前後に一度絶滅したものと見られていたが、近年分布を拡大させています。

南西諸島に分布するリュウキュウイノシシは本土のイノシシの亜種として扱うのが通例ですが、別種として扱うべきという意見も存在します。北海道には分布していないとされるが、逃げ出した個体が定着しているとも言われます。

日本のイノシシの分布
地域 分布状況
本州 東北地方以南に分布
四国 分布
九州 分布
南西諸島 分布
北海道 分布していない

2-3. イノシシの生息地の変化

イノシシの生息地は、人間の活動によって大きく変化しています。特に、戦後のエネルギー革命や耕作放棄によって生息適地が作り出され、イノシシの分布域が急速に回復しました。

近年では、都市部への進出も目立っており、人との接触機会が増加しています。

イノシシの生息地の変化
要因 影響
戦後のエネルギー革命 生息適地の増加
耕作放棄地の増加 生息適地の増加
都市部への進出 人との接触機会の増加

2-4. まとめ

イノシシは、森林や農耕地など、様々な環境に適応して生息しています。日本では、本州、四国、九州、南西諸島に分布しており、近年では分布域が拡大傾向にあります。

人間の活動による環境変化は、イノシシの生息地にも大きな影響を与えています。耕作放棄地の増加や都市部への進出など、イノシシと人間の生活空間が重なり合うことで、新たな問題も発生しています。

イノシシの生息地を理解することは、彼らとの共存を図る上で重要です。特に、人間の活動がイノシシの生息環境に与える影響について認識し、適切な対策を講じる必要があります。

3. イノシシの食性について

要約

3-1. イノシシの食性

イノシシは雑食性で、植物質のものを中心に、動物質のものも食べます。植物質では、ドングリ等の堅果類、草本類やその地下茎、根などが挙げられます。動物質では、昆虫、ミミズ、ネズミ、ヘビなどを食べます。

農作物では、イモ類、水稲、タケノコ、カキ、クリなどが被害を受けやすいです。

イノシシは、嗅覚が優れているため、地中のイモやキノコなどもにおいで探し出すことができます。

イノシシの食性
種類
植物質 ドングリ、タケノコ、イモ類、草本類、根
動物質 昆虫、ミミズ、ネズミ、ヘビ

3-2. イノシシの食性と季節変化

イノシシの食性は、季節によって変化します。春季には植物の葉(単子葉・双子葉)やタケ類を多く採食し、夏季には昆虫類や両生類(カエル)・ミミズなどの動物質の割合が増加します。秋季〜冬季にはコナラなどの堅果類(ドングリ)や植物の地下茎などを多く採食します。

イノシシの食性と季節変化
季節 主な食物
春季 植物の葉、タケ類
夏季 昆虫類、両生類、ミミズ
秋季〜冬季 堅果類、植物の地下茎

3-3. イノシシの食性と農作物被害

イノシシによる農作物被害は、イネ・果樹・野菜などで発生しており、幅広い品目で被害が発生しています。中山間地域などの被害が激しい地域では農業の継続すら危ぶまれる状況となっています。

近年のイノシシの農作物被害額(全国)は減少傾向ですが、令和元年度はイネ24億円、果樹9億5千万円、5億9千万円、合計46億円もの被害が発生しています。

イノシシの食性と農作物被害
作物 被害状況
イネ 穂先を食べる
果樹 果実を食べる
野菜 根や葉を食べる
その他 畑を荒らす

3-4. まとめ

イノシシは雑食性で、植物質と動物質の両方を食べます。食性は季節によって変化し、特にドングリやタケノコ、イモ類などの農作物を好んで食べます。

イノシシの食性は、農作物被害を引き起こす原因の一つとなっています。特に、耕作放棄地の増加や都市部への進出など、人間の活動がイノシシの食生活に影響を与えていると考えられます。

イノシシの食性と農作物被害の関係を理解することは、被害対策を講じる上で重要です。

4. イノシシの繁殖と子育て

要約

4-1. イノシシの繁殖

イノシシの交尾期は年1回、12~2月頃で、出産期は4~6月頃です。繁殖可能なメスは、毎年2~7頭(平均4~5頭)を出産します。春の出産に失敗した場合、秋にも出産を行う場合がある。満2歳で初産を迎えます。

一般的に、幼獣の死亡率は高いです。野生下での平均寿命は10歳前後と言われています。

イノシシの繁殖
項目 内容
交尾期 12~2月
出産期 4~6月
産子数 2~7頭(平均4~5頭)
初産齢 満2歳

4-2. イノシシの子育て

イノシシは、母親と子からなるグループを形成します。また血縁関係のある複数の母子グループが、十数頭のグループを形成することもあります。親離れの際には、同腹の子同士によるグループが一時的に形成されます。

オスは、交尾期以外は基本的に単独で行動しますが、若いオス同士でグループを形成する場合があります。縄張り性は低いと言われています。

イノシシの子育て
行動 特徴
家族群 母親と子で形成
グループ 複数の母子グループが結合
オス 交尾期以外は単独行動
縄張り性 低い

4-3. イノシシの子育てと保護色

イノシシの子どもは「ウリ坊」と呼ばれ、生後5ヵ月までは体に縞模様があります。この縞模様は、外敵から身を守る保護色の役割を果たしています。

イノシシの子育てと保護色
時期 特徴
生後5ヵ月まで 体に縞模様(保護色)がある
ウリ坊 イノシシの幼獣の呼び名

4-4. まとめ

イノシシは、繁殖期にオスとメスが交尾し、メスは1度に4~5頭の子を産みます。幼獣は「ウリ坊」と呼ばれ、生後5ヵ月までは体に縞模様があります。

イノシシは、母親と子からなる家族群を形成し、子育てを行います。オスは、交尾期以外は基本的に単独で行動します。

イノシシの繁殖と子育ては、彼らの生存戦略において重要な役割を果たしています。

5. イノシシと人間の関係

要約

5-1. イノシシと人間の長い歴史

イノシシは、人類との関わりが深く、古くから食料源として利用されてきました。ブタはイノシシを家畜化したもので、その起源は人類が定着農耕を開始した約9000年前にさかのぼります。

日本では、縄文時代の遺跡からもしばしば骨が見つかっています。仏教が伝わり獣肉食が表向き禁忌とされた時代も、山間部などでは「山鯨(やまくじら)」と称して食されていました。

イノシシと人間の長い歴史
時代 特徴
縄文時代 遺跡から骨が出土
仏教伝来後 山間部で「山鯨」として食されていた

5-2. イノシシと人間の衝突

近年では、イノシシによる農作物被害や人身事故が問題となっています。

イノシシは、農作物を荒らす害獣として駆除されることも多く、農林水産省がまとめた2022年(令和4年)度の鳥獣による日本の農業被害額は165億円です。動物別ではシカが65億円で首位、次いでイノシシが36億円となっていて2位になっています。

イノシシによる人身被害については雄の鋭い犬歯、いわゆる牙によるものが特に危険です。鼻先をしゃくり上げるようにして牙を用いた攻撃を行い、この時に重要な臓器や血管を傷つけられると、時に致命傷となることもあります。

イノシシと人間の衝突
問題 内容
農作物被害 イネ、果樹、野菜など
人身事故 牙による攻撃、突進

5-3. イノシシと人間の共存

イノシシとの共存には、彼らの生態を理解し、適切な対策を講じることが重要です。

農作物被害を防ぐためには、電気柵や忌避剤などの対策が有効です。

人身事故を防ぐためには、イノシシの生息地を把握し、遭遇しないように注意することが重要です。

イノシシと人間の共存
対策 目的
電気柵 農作物被害防止
忌避剤 農作物被害防止
生息地の把握 人身事故防止
遭遇回避 人身事故防止

5-4. まとめ

イノシシは、古くから人間と関わりを持ってきた動物です。食料源として利用されてきた一方で、近年では農作物被害や人身事故など、様々な問題を引き起こしています。

イノシシとの共存には、彼らの生態を理解し、適切な対策を講じることが重要です。

イノシシは、自然生態系の中で重要な役割を担っています。彼らの生態を理解し、尊重することで、人間とイノシシが共存できる未来を築くことができるでしょう。

6. イノシシの保護と狩猟管理

要約

6-1. イノシシの保護

イノシシは、鳥獣保護管理法で狩猟鳥獣に指定されており、無闇やたらと捕獲することは禁じられています。

近年では、生息数が増加傾向にあり、農作物被害や人身事故などの問題が発生しています。

イノシシの保護には、生息環境の保全や適切な狩猟管理が重要です。

イノシシの保護
法律 内容
鳥獣保護管理法 狩猟鳥獣に指定、無闇な捕獲は禁止

6-2. イノシシの狩猟管理

イノシシの狩猟管理は、農作物被害や人身事故を防ぐために必要です。

狩猟は、適切な時期、場所、方法で行う必要があります。

近年では、イノシシの狩猟方法も多様化しており、罠猟や電気柵などの方法も用いられています。

イノシシの狩猟管理
目的 内容
農作物被害防止 狩猟による個体数調整
人身事故防止 狩猟による個体数調整

6-3. イノシシの保護と狩猟管理の課題

イノシシの保護と狩猟管理は、様々な課題を抱えています。

例えば、狩猟者の高齢化や減少、狩猟方法の制限など、狩猟管理の効率性を高めることが課題となっています。

また、イノシシの生息環境の保全と人間の活動とのバランスをどのように取るかも課題です。

イノシシの保護と狩猟管理の課題
課題 内容
狩猟者の高齢化・減少 狩猟管理の効率性低下
狩猟方法の制限 狩猟管理の効率性低下
生息環境の保全 人間活動とのバランス
狩猟管理の効率性 適切な狩猟方法の開発

6-4. まとめ

イノシシの保護と狩猟管理は、農作物被害や人身事故を防ぎ、生態系のバランスを保つために重要です。

イノシシの保護と狩猟管理には、様々な課題がありますが、関係者間の連携と協力によって、持続可能な管理体制を構築していく必要があります。

イノシシの保護と狩猟管理は、人間と野生動物が共存していくための重要な取り組みです。

参考文献

イノシシとは – 生態や形態の特徴解説

【イノシシ|動物図鑑】特徴と生態

イノシシはどんな動物?特徴、生態、生息地について解説 …

イノシシ | Wikipedia

イノシシ(Sus scrofa)の生態|繁殖・食性・農作物被害|GISで …

イノシシの生態・行動を詳しく解説 – イノホイ オンライン …

イノシシの生態|イノシシの生態解明と農作物被害防止技術の開発

PDF イノシシの正しい理解と管理の考え方について – 環境省

1,イノシシの生態について – 茨城県

イノシシ @ 動物完全大百科

イノシシの生態・被害について | イノシシ・シカ・カラス対策 …

PDF I 基本知識 ~イノシシの生物学的特徴と痕跡~ – Reconstruction

イノシシと人間のあつれき:野生動物との共存を考える | nippon.com

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