項目 | 内容 |
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特徴 | 細長い体、銀白色の体色、胸びれ上方の糸状に伸びる軟条 |
生息環境 | 有明海湾奥部、筑後川感潮域 |
食性 | プランクトン食、特にカイアシ類や枝角類 |
繁殖方法 | 6~7月に筑後川感潮域を遡上し産卵、淡水域で孵化 |
生態系における役割 | 一次消費者、他の生物の餌 |
保護活動と課題 | 生息環境の保全、漁獲量の制限、人工繁殖など |
1. 魚:エツの特徴
エツの形態
エツは、全長30cm-40cmほど[1]。体は植物の葉のように前後に細長く、左右から押しつぶされたように平たい。体側は銀白色の円鱗におおわれ、全体的にはナイフの刃のような外見である。目は頭の前方にあり、口は目の後ろまで大きく裂ける。胸びれ上方の軟条が糸状に細長く伸びる。尻びれは前後に細長く、体の後半ほとんどに及ぶ。尾びれは小さな三角形で、ほぼ尻びれと連続している。顔つきや鱗などは同じ科のカタクチイワシに似るが、上記の優雅に長く伸びるひれの形状もあって、外見はかなり印象が異なって見える。
エツは、ニシン目・カタクチイワシ科に分類される魚の一種で、東アジアの汽水域に生息する。食用になる魚として知られており、特に筑後川流域では郷土料理として親しまれている。
エツは、漢字で「鮆」や「斉魚」とも表記される。また、別名として「鱭魚」「刀魚」「銀刀魚」などとも呼ばれる。
特徴 | 説明 |
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体形 | 細長く、左右に平たい |
体色 | 銀白色 |
ひれ | 胸びれ上方の軟条が糸状に伸びる |
口 | 目の後ろまで大きく裂ける |
鱗 | 銀白色の円鱗 |
外見 | ナイフの刃のような形状 |
エツの分布
エツは、渤海、黄海、東シナ海の沿岸域に分布する。日本では、筑後川河口域を中心とした有明海奥部にほぼ限られる[1]。
中国と朝鮮半島の個体群は亜種 C. n. ectenes Yuan et Quin
地域 | 分布状況 |
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日本 | 筑後川河口域を中心とした有明海奥部 |
中国・朝鮮半島 | 亜種が存在する |
世界 | 渤海、黄海、東シナ海の沿岸域 |
エツの生態
エツは、普段は汽水域とその周辺の海に生息し、清んだ透明度の高い水域よりも、大河から流入したシルトや粘土が激しい潮汐によって懸濁して濁って見える水域を好む。プランクトン食性で、おもに動物プランクトンを鰓でろ過して捕食する。
産卵期は初夏で、産卵を控えた成魚は川をさかのぼり、夕方に直径1mmほどの浮性卵を産卵する。中国の長江では河口から1000kmの所で成魚が見つかった例もある。ただし日本でのエツの繁殖地はもともと大陸的な大河に依存していることもあってほぼ筑後川に限られ、他の河川で産卵することは少ない[2]。
卵は川を流れ下りながら1日以内に孵化するが、塩分が濃い所まで流されると死んでしまう。稚魚は秋まで塩分の薄い汽水域にとどまって成長し、冬には海水域の深場に移る。寿命は2年から4年ほどで、産卵した親魚はほとんど死んでしまう。
項目 | 説明 |
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生息場所 | 汽水域とその周辺の海 |
食性 | プランクトン食、主に動物プランクトン |
産卵期 | 初夏 |
産卵場所 | 筑後川など、塩分濃度の低い汽水域 |
寿命 | 2年から4年 |
まとめ
エツは、細長い体と銀白色の体色、そして胸びれ上方の糸状に伸びる軟条が特徴的な魚である。
日本では有明海奥部にのみ生息し、筑後川で産卵を行う。
プランクトン食性で、汽水域を好み、産卵期には川を遡上する。
2. 魚:エツの生息環境
エツの生息場所
エツは、主に有明海湾奥部とそこに流れ込む河川の感潮域に生息する。
特に筑後川河口域から上流約20kmの感潮域を主な生息地としており、産卵期にはこの区間を遡上する。
有明海は、日本最大の干潟を持つ海域であり、潮汐の影響を大きく受ける。エツは、この潮汐の影響によって生じる汽水域を好むと考えられている。
場所 | 説明 |
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有明海湾奥部 | 主な生息地 |
筑後川感潮域 | 産卵場所 |
河川 | 産卵期に遡上する |
水深 | 浅い場所を好む |
水質 | 濁りの弱い環境を好む |
エツの生息環境の変化
筑後川では、1985年に河口から23kmの感潮域上流部に筑後大堰と呼ばれる堰が建設された。これによる取水は、エツの産卵の条件である感潮域上流部の淡水域の広がりと流量に影響している。
また、この建設により、感潮域そのものも7km狭められ、堰操作により、流れの状況も自然のリズムを失った。
さらに、長年に渡って続けられている採砂も、感潮域の河床形態に少なからず影響していると見られ、実際、この十数年間に感潮域上流部の浮泥堆積が著しく進行している。
六角川においても、河口堰が建設されており、その稼働を要求する声が強い。こちらの堰は河口に近い地点に建設されているため、稼働されればエツの産卵域はほぼ消滅する。
影響 | 説明 |
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淡水域の減少 | 産卵場所の減少 |
流量の変化 | 遡上の阻害 |
感潮域の縮小 | 生息地の減少 |
河床形態の変化 | 浮泥堆積の増加 |
エツの生息環境と人間活動
筑後川におけるエツの生息環境は、筑後大堰の建設や採砂などの影響を受けて変化している。
これらの環境変化に加え、郷土料理としてのエツの人気は高く、高価なため、筑後川では産卵群を多量に漁獲している。
福岡県と佐賀県の条例により、筑後川におけるエツの漁期は5~7月と定められているが、産卵期と産卵場を丸々含めた制限条例は資源や産卵の保護を意図してはいないようである。
活動 | 影響 |
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漁獲 | 資源量の減少 |
採砂 | 河床形態の変化 |
河口堰建設 | 産卵場所の消滅 |
環境変化 | 生息地の減少 |
まとめ
エツは、有明海湾奥部と筑後川感潮域を主な生息地としている。
筑後大堰の建設や採砂などの影響により、エツの生息環境は変化しており、特に産卵場所である感潮域上流部の環境悪化が懸念されている。
さらに、エツの漁獲も資源保護の観点から課題となっている。
3. 魚:エツの食性
エツの餌
エツは、全生活史を通じてプランクトン食で、特にかいあし類と枝角類に大きく依存する。
エツは、口の中に細かい鰓耙(さいは)と呼ばれる器官を持っており、これを使って水中のプランクトンを濾し取って食べる。
エツの餌となるプランクトンは、有明海の豊かな栄養塩によって豊富に生息している。
餌 | 説明 |
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プランクトン | 主に動物プランクトン |
カイアシ類 | 重要な餌 |
枝角類 | 重要な餌 |
鰓耙 | プランクトンを濾し取る器官 |
エツの食性と環境
エツは、比較的濁りの弱い環境で行動していることが明らかになっている。
これは、エツの餌となるプランクトンが、濁りの強い環境では生息しにくいことと関係していると考えられる。
筑後川の高濁度は1
環境 | 説明 |
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濁度 | 比較的低い濁度を好む |
水質 | プランクトンが豊富に生息する場所を好む |
水温 | 24~26℃で活発に活動する |
エツの食性と漁獲
エツは、プランクトン食であるため、釣りで捕獲することは難しい。
そのため、エツ漁では、流し刺し網や地引き網などの漁法が用いられる。
エツの漁獲量は、近年減少傾向にある。これは、生息環境の変化や乱獲などが原因と考えられている。
漁獲方法 | 説明 |
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流し刺し網 | 伝統的な漁法 |
地引き網 | 伝統的な漁法 |
釣り | プランクトン食のため困難 |
まとめ
エツは、プランクトン食で、特にカイアシ類や枝角類を餌としている。
エツは、濁りの弱い環境を好み、餌となるプランクトンが豊富に生息する場所を好む。
エツの漁獲は、流し刺し網や地引き網などの漁法で行われるが、近年減少傾向にある。
4. 魚:エツの繁殖方法
エツの産卵時期
エツの産卵期は6~7月で、筑後川の感潮域を遡上し、その上限に近い、河口から20km前後の水域を中心に産卵する。
最近の佐賀県の調査では、佐賀県六角川でも産卵していることが分かっている。
その他の河川と有明海での産卵は認められていない。
時期 | 説明 |
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6月~7月 | 産卵期 |
5月~7月 | 漁期 |
4月下旬 | 河口付近に集まる |
9月~10月 | 稚魚が河川にとどまる |
エツの産卵場所
エツの産卵場は淡水で、卵と仔魚は発育中に徐々に下流へ流される。
淡水中の卵は、静水では沈み、わずかな水の動きで浮上する。塩分1.06‰以上の海水濃度では浮上する。
卵発生中に、海水濃度が塩分17‰以上になれば発生や生存に影響が生じる。
場所 | 説明 |
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筑後川感潮域 | 主な産卵場所 |
河口から20km付近 | 産卵の中心 |
六角川 | 近年産卵が確認されている |
有明海 | 産卵は確認されていない |
エツの繁殖と環境
エツの産卵は、水温24~26℃で、約19時間で孵化する。
孵化直後の仔魚は、全長2.5mmである。仔魚と若い稚魚は感潮域にとどまり、有明海には出ない。
9月以降に全長約10cmになると有明海に降り、しばらく湾奥部で過ごし、沖合で越冬する。
生後1年で全長17~21cm、2年で22~27cm、3年で24~30.5cm、4年で34cmとなる。2歳、全長約25cmで成熟する。
項目 | 説明 |
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水温 | 24~26℃で孵化 |
孵化時間 | 約19時間 |
仔魚 | 全長2.5mm |
稚魚 | 感潮域で成長 |
成魚 | 2歳で成熟 |
まとめ
エツは、6~7月に筑後川感潮域を遡上し、河口から20km前後の水域で産卵を行う。
産卵場は淡水で、卵は水流によって下流へ運ばれる。
稚魚は、秋まで感潮域で成長し、その後有明海へ移動する。
5. 魚:エツの生態系における役割
エツの生態系における位置づけ
エツは、有明海の食物連鎖において重要な役割を担っている。
エツは、プランクトンを食べることで、有明海の生態系における一次消費者としての役割を果たしている。
また、エツは、他の魚類や鳥類などの餌となることで、食物連鎖の上位レベルの生物を支えている。
役割 | 説明 |
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一次消費者 | プランクトンを食べる |
食物連鎖 | 上位レベルの生物を支える |
生態系 | 重要な役割を担う |
エツの生態系への影響
エツの個体数が減少すると、有明海の生態系に影響が及ぶ可能性がある。
例えば、エツを餌とする魚類や鳥類の個体数が減少したり、エツが食べるプランクトンの量が増加したりする可能性がある。
このような変化は、有明海の生態系のバランスを崩し、他の生物にも影響を及ぼす可能性がある。
影響 | 説明 |
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個体数減少 | 餌となる魚類や鳥類の減少 |
プランクトン増加 | エツの減少による影響 |
生態系のバランス | 崩れる可能性 |
エツの生態系保全
エツの生態系における役割を考えると、エツの個体数を維持することは、有明海の生態系全体の保全にとって重要である。
そのため、エツの生息環境の保全や漁獲量の管理など、エツの個体数を維持するための取り組みが必要となる。
エツの保護活動は、有明海の生態系全体の保全に貢献する。
活動 | 説明 |
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生息環境の保全 | エツの個体数維持 |
漁獲量の管理 | 資源保護 |
人工繁殖 | 個体数増加 |
生態系保全 | エツの保護は生態系全体の保全に貢献 |
まとめ
エツは、有明海の食物連鎖において重要な役割を担っており、一次消費者として、また他の生物の餌として、生態系を支えている。
エツの個体数減少は、有明海の生態系に影響を及ぼす可能性があり、エツの保護活動は、有明海の生態系全体の保全に貢献する。
6. 魚:エツの保護活動と課題
エツの保護活動
エツは、生息環境の悪化や乱獲などの影響により、個体数が減少しており、絶滅危惧種に指定されている。
エツの保護活動としては、生息環境の保全、漁獲量の制限、人工繁殖などが行われている。
筑後川では、エツの遡上を助けるため、ダムからの放流などが行われている。
活動 | 説明 |
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生息環境の保全 | ダムからの放流など |
漁獲量の制限 | 漁期や漁獲量の規制 |
人工繁殖 | 個体数増加のための取り組み |
エツの保護活動の課題
エツの保護活動は、様々な課題に直面している。
例えば、筑後大堰などの河川改修による生息環境の変化は、容易に回復できない。
また、エツの漁獲量の制限は、漁業者にとって経済的な影響が大きく、理解と協力が不可欠である。
課題 | 説明 |
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環境変化の回復 | 筑後大堰などの影響は容易に回復できない |
漁業者への影響 | 経済的な影響が大きい |
保護活動の継続 | 長期的な取り組みが必要 |
エツの未来
エツの保護活動は、エツの個体数回復だけでなく、有明海の生態系全体の保全にもつながる。
エツの保護活動は、地域住民や漁業者、研究者など、様々な人々の協力によって進められている。
エツの保護活動は、未来の世代に豊かな自然を残すための重要な取り組みである。
目標 | 説明 |
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個体数回復 | 絶滅を防ぐ |
生態系保全 | 有明海の生態系を守る |
持続可能な利用 | 未来の世代に豊かな自然を残す |
まとめ
エツは、生息環境の悪化や乱獲などの影響により、個体数が減少しており、絶滅危惧種に指定されている。
エツの保護活動は、生息環境の保全、漁獲量の制限、人工繁殖など、様々な取り組みが行われているが、課題も多く、継続的な努力が必要である。
エツの保護活動は、有明海の生態系全体の保全に貢献する重要な取り組みであり、地域住民や漁業者、研究者など、様々な人々の協力が不可欠である。
参考文献
・エツとは – 生態や形態の特徴解説 – Zukan(図鑑)
・エツ(刃形魚)の秘密すべてご紹介!基礎知識からおもしろ …
・エツは希少な魚!食べ方や釣り方は?筑後川の固有種に迫って …
・“幻の魚”エツとは?銀色に輝く初夏の風物詩 | 旅の特集 …
・幻の魚「エツ」が食べられる時期とお店を紹介! – とくなび福岡
・筑後川河口域における汽水魚エツの行動 と塩水遡上の関係につい
・魚はどうやって産卵するの? 産卵の数や頻度、産み方に目を …
・佐賀人がひた隠す幻の魚 えつ – 佐賀市シティプロモーション
・海の生態系 | 海の自然のなるほど | 海と船なるほど豆事典 …
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