イランの地下水路カナートとは?世界遺産についての解説

イランの世界遺産
世界遺産名 登録年 登録区分 所在地
ゴレスタン宮殿 2013 文化遺産 テヘラン
イスファハーンのイマーム広場 2012 文化遺産 イスファハーン
マスジェデ・ジャーメ 2012 文化遺産 イスファハーン
ペルセポリス 1979 文化遺産 シーラーズ
パサルガダエ 2018 文化遺産 シーラーズ
エラム庭園 2011 文化遺産 シーラーズ
ファールス地方のササン朝の考古学的景観 2018 文化遺産 シーラーズ
ヤズドの旧市街 2017 文化遺産 ヤズド
タブリーズの歴史的バザール施設 2010 文化遺産 タブリーズ
イランのアルメニア人修道院建造物群 2008 文化遺産 タブリーズ
アルダビールのシャイフ・サフィーアッディーン廟の歴史的建造物 2010 文化遺産 アルダビール
ソルターニーイェ 2005 文化遺産 ザンジャーン
タフテ・ソレイマーン 2003 文化遺産 ザンジャーン
ベヒストゥン 2006 文化遺産 ケルマーンシャー
シューシュタルの歴史的水利施設 2009 文化遺産 アフワズ
チョガ・ザンビール 1979 文化遺産 アフワズ
スーサ 2015 文化遺産 アフワズ
ゴンバデ・カーブース 2012 文化遺産 ゴルガーン
ガスバ・カナート 2016 文化遺産 ゴナーバード
シャフリ・ソフタ 2016 文化遺産 ザーボル
メイマンドの文化的景観 2015 文化遺産 シャフレ・バーバク
バムとその文化的景観 2004 文化遺産 バム
ルート砂漠 2016 自然遺産 ケルマーン
ヒルカニアの森林郡 2019 自然遺産 ゴルガーン
ペルシャのキャラバンサライ 2022 文化遺産 ヤズド
ハウラマン/ウラマナトの文化的景観 2021 文化遺産 クルディスタン州
ペルシアのカナート 2016 文化遺産 ヤズド

1. イランのカナートとは?

要約

カナートとは?

イランの地下水路カナートは、世界遺産に登録されている、イランの乾燥地帯で農業や生活を支える、紀元前から存在する地下水路を使った水の供給・管理システムです。カナートは、渓谷の上部の沖積帯水層から、水の自重により地下水路に沿って水を導く古代から続く灌漑システムです。時には何キロにも及ぶカナートの長さや勾配は、熟練職人の技術を要する伝統的な方法で計算され、その手法は何世紀にも渡って受け継がれてきました。伝統的な共同体の管理システムが今日まで維持されており、公平で持続可能な水の共有と分配を可能としています。地下水路カナートは、乾燥地帯における人間の居住の歴史における傑出した技術であり、また共同で水資源を管理するという文化的伝統も示しています。このような点が評価され、現在もイラン国内に数多く残るカナートの中から代表的な11件が、2016年に世界遺産に登録されました。そこには労働者の休憩所、貯水池や水車など関連する施設も含まれています。

カナートは、イラン高原周辺の気候や地域的条件から、古代より水が少ない地域で、水不足を克服するために生まれた灌漑システムです。カナートは数千年の歴史をもち、古代オリエントの大帝国ペルシア帝国が、古代メソポタミア文明を凌駕した点の一つに、カナートの存在があったからといわれています。現在も、古代に起源をもつカナートを使用している地域も多々あり、カナートは、古代から現代に至るまで、地域の人々の命を繋ぐシステムとなっています。

イランの分も含めた、世界中にあるカナートの総数は5万とも言われ、そのうち、発祥地となったイランに残るカナートの数は37

カナートの呼び名
地域 呼び名
イラン カナート
アフガニスタン カレーズ
アルジェリア フォガラ
オマーン ファラジ
中国 坎児井(カンアルチン)
日本 マンボ

カナートの語源

カナートはアラビア語ですが、そもそも大元の語源が何であるかは確定していない。アッカド語やヘブライ語で「葦」を意味していた言葉が変化したとする説や、もともとペルシア語だったものがアラビア語に入ったとする説などがある。ペルシア語ではカレーズ(kariz

カナートの広がり

イランより西にも伝播した。オマーン周辺へは、ペルシアの勢力が及んだ紀元前6世紀頃に伝播したと考えられており、「ファラジ」(複数形アフラジ)と呼ばれている。「オマーンの灌漑システム、アフラジ」(オマーンの世界遺産、2006年登録)、「アル・アインの文化的遺跡群(ハフィート、ヒーリー、ビダー・ビント・サウドとオアシス群)」(アラブ首長国連邦の世界遺産、2011年登録)という2件のアフラジ関連遺産が、ペルシア式カナートより先に世界遺産に登録されている。また、降水に恵まれるレヴァントでは、あまりカナートは発達しなかったが、パレスチナの世界遺産であるバティールの農業景観は、カナートと結びついている。

北アフリカにはアラビア人を介してイスラームとともに伝播し、フォガラと呼ばれるその用水路は、リビア、アルジェリア、モロッコなどに見られる。旧市街がモロッコの世界遺産になっているマラケシュも、カナートによって発達した都市である。

カナートの技術はウマイヤ朝の拡大によってイベリア半島にも伝播した。スペインの首都マドリードも、元はカナートによって開かれた町である。「トラムンタナ山脈の文化的景観」(スペインの世界遺産、2011年登録)の農業景観も、カナートと結びついている。ヨーロッパではドイツやボヘミアにも伝播したが、何よりもスペインでの定着は、大航海時代を経てアメリカ大陸への伝播をもたらした。

まとめ

イランの地下水路カナートは、乾燥地帯における水不足を克服するために生まれた、古代から続く灌漑システムです。その技術は、イランから世界各地に広がり、現在も世界中で利用されています。カナートは、単なる水路ではなく、乾燥地帯における人々の生活や文化を支える重要なインフラであり、世界遺産に登録されるほど、その価値が認められています。

2. カナートの仕組みと構造

要約

カナートの構造

カナートは、山麓に母井戸を掘り、水平に近いなだらかな勾配で横坑を延ばしていき、離れた地域に水を供給するシステムです。その掘削には測量が必要不可欠であり、その技術が洗練されていった。横坑を延ばす際に通気のためや作業のために多くの縦坑を空けることになるので、上空から見ると点状に縦坑が連なって見える。

カナートの掘削方法

カナートの掘削は、重力だけを利用して地下から水を地上まで汲み上げるという方式で行われます。機材を一切使わず、人力で掘削していくため、非常に時間と労力を要する作業です。

カナートの構成要素

カナートは、母井戸、横坑、竪坑、堅坑などから構成されています。母井戸は、地下水を含む帯水層に最初に到達する井戸で、カナート全体の起点となります。横坑は、母井戸から水を導くための地下トンネルで、水平に近い勾配で掘削されます。竪坑は、横坑の掘削や通気のために掘られた井戸で、横坑と地表を繋ぐ役割を果たします。堅坑は、横坑の終点に位置する井戸で、ここから水が地上に流れ出てきます。

カナートの構成要素
構成要素 説明
母井戸 地下水を含む帯水層に最初に到達する井戸
横坑 母井戸から水を導くための地下トンネル
竪坑 横坑の掘削や通気のために掘られた井戸
堅坑 横坑の終点に位置する井戸

まとめ

カナートは、山麓の地下水を利用して、水を遠くまで運ぶための地下水路システムです。その構造は、母井戸、横坑、竪坑、堅坑などから構成され、重力と人力によって水を供給します。カナートの掘削は、高度な技術と労力を要する作業であり、その構造は、乾燥地帯における水資源の有効利用を可能にする、先人の知恵の結晶と言えるでしょう。

3. カナートの役割と利用方法

要約

カナートの役割

カナートは、乾燥地帯において、農業用水や生活用水、さらには工業用水など、様々な用途に利用されてきました。カナートは、地下水を利用するため、蒸発による水量の減少を防ぐことができ、乾燥地帯における農業や生活を支える重要な役割を果たしてきました。

カナートの利用方法

カナートの水は、農業用水として、畑や果樹園の灌漑に使用されます。また、生活用水として、飲料水や洗濯、家畜の飲み水などに利用されます。さらに、カナートの水は、水車や水力発電など、エネルギー源としても利用されてきました。

カナートの利用方法
用途
農業用水 畑や果樹園の灌漑
生活用水 飲料水、洗濯、家畜の飲み水
エネルギー源 水車、水力発電

カナートと社会

カナートは、単なる水利施設ではなく、人々の生活や文化と深く結びついています。カナートの建設や維持管理には、多くの労働力が必要とされ、共同作業によって行われてきました。そのため、カナートは、人々の社会的なつながりを生み出し、共同体意識を育む役割を果たしてきました。また、カナートの水は、人々の生活を支えるだけでなく、宗教的な儀式や伝統行事にも利用されてきました。

まとめ

カナートは、乾燥地帯における人々の生活を支える重要な役割を果たしてきました。農業用水や生活用水として利用されるだけでなく、社会的なつながりを生み出し、文化を育む役割も担ってきました。カナートは、乾燥地帯における人々の知恵と努力の結晶であり、その価値は、世界遺産に登録されることで、改めて認められています。

4. イランのカナートと世界遺産登録

要約

世界遺産登録の背景

イランのカナートは、その技術的な優位性と文化的価値が認められ、2016年にユネスコの世界遺産に登録されました。イラン国内には37

世界遺産登録基準

イランのカナートは、世界遺産登録基準のうち、以下の2つの基準を満たしています。\n\n(iii) 人類の創造性、芸術的表現、思想、科学技術、人類の価値観の重要な証である。\n(iv) 人類の歴史上重要な時期を代表する建築様式、技術的集成、景観または文化的景観の優れた例である。

世界遺産登録基準
基準 説明
(iii) 人類の創造性、芸術的表現、思想、科学技術、人類の価値観の重要な証である
(iv) 人類の歴史上重要な時期を代表する建築様式、技術的集成、景観または文化的景観の優れた例である

世界遺産登録の意義

イランのカナートの世界遺産登録は、乾燥地帯における水資源の有効利用の重要性を世界に示すものであり、カナートの技術や文化を保護し、継承していくための国際的な取り組みを促進する役割を担っています。

まとめ

イランのカナートは、その技術的な優位性と文化的価値が認められ、世界遺産に登録されました。世界遺産登録は、カナートの重要性を世界に示すだけでなく、その保護と継承を促進する役割を担っています。

5. カナートの保護と維持管理

要約

カナートの維持管理の課題

カナートの維持管理は、非常に労力を要する作業です。カナートは、地下に掘られた構造物であるため、定期的な点検や清掃、土砂の除去などが不可欠です。また、カナートは、長年使用されているため、老朽化による破損や崩壊のリスクも高まります。さらに、近年では、地下水の過剰な利用による水位低下や、気候変動による降水量の減少など、カナートの維持管理を困難にする要因も増えています。

カナートの保護と継承

カナートの保護と継承のためには、伝統的な技術や知識を継承していくことが重要です。そのため、カナートの建設や維持管理に関わる職人の育成や、カナートに関する研究や教育活動の推進などが求められます。また、カナートの利用方法を見直し、地下水の過剰な利用を抑制するなど、持続可能な水資源管理の取り組みを進めることも重要です。

カナートの未来

カナートは、乾燥地帯における貴重な水資源を供給するシステムであり、その技術や文化は、現代においても重要な意味を持っています。カナートの保護と継承は、乾燥地帯における持続可能な発展のためにも不可欠です。

まとめ

カナートの保護と維持管理は、乾燥地帯における持続可能な発展のためにも重要な課題です。伝統的な技術や知識を継承し、地下水の過剰な利用を抑制することで、カナートは、今後も人々の生活を支える重要なインフラとして、その役割を果たしていくでしょう。

6. カナート観光と体験

要約

カナート観光の魅力

イランのカナートは、その歴史的な価値と技術的な素晴らしさから、観光客にとって魅力的なスポットとなっています。カナートの地下水路を実際に歩いて見学したり、カナートの水を利用した庭園やオアシスを訪れたりすることができます。また、カナートの建設や維持管理に関わる人々との交流を通して、イランの文化や歴史を深く理解することができます。

カナート観光の注意点

イランは、現在も政治的な不安定さがある国です。そのため、カナート観光に行く際には、安全に十分注意する必要があります。最新の安全情報を入手し、危険な地域には近づかないようにしましょう。また、イランでは、女性は公共の場では頭を覆う必要があります。服装にも注意し、現地の人々の文化や習慣を尊重しましょう。

カナート体験

カナートは、地下に掘られた構造物であるため、見学には、懐中電灯やヘルメットなどの装備が必要となる場合があります。また、カナート内は、気温が低く、湿度が高い場合もあるため、体調管理にも注意が必要です。カナート見学は、貴重な体験となる一方で、危険が伴う場合もあるため、事前に十分な情報収集を行い、安全に配慮して行動しましょう。

まとめ

イランのカナートは、歴史と技術の融合した貴重な遺産であり、観光客にとって魅力的なスポットです。カナート観光は、イランの文化や歴史を深く理解する貴重な体験となります。ただし、安全に十分注意し、現地の人々の文化や習慣を尊重することが大切です。

参考文献

ペルシア式カナート – Wikipedia

イランの地下水路カナート | アジア, イラン | 世界遺産ガイド

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ペルシアのカナート | イラン | 世界遺産オンラインガイド

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