電算写植オペレーター:消えた職業の謎と功績

1. 電算写植とは?活版印刷との違い

1-1. 活版印刷の時代

かつて、印刷物の主流は「活版印刷」でした。活版印刷とは、金属製の活字を組み合わせて版を作り、そこにインクを付けて紙に印刷する手法のことです。活字は一つ一つが独立しており、必要な文字を拾い集めて文章を組み立てる作業は非常に手間がかかりました。また、活字の管理や版の保管にも広いスペースが必要で、大量の印刷物を作るには時間もコストもかかるのが難点でした。

1-2. 電算写植の登場

1960年代になると、コンピューター技術の発展とともに「電算写植」が登場します。電算写植とは、文字や記号の情報をデジタルデータとして入力し、それを印字装置で印字する仕組みです。文字の大きさや書体、行間などを自由に調整できるのが特徴で、活版印刷に比べて効率的に印刷物を作成することが可能になりました。電算写植の登場により、活字を拾い集める作業から解放されただけでなく、印刷物のデザイン性も飛躍的に向上しました。

1-3. 電算写植と活版印刷の違い

電算写植と活版印刷の大きな違いは、版を作る必要があるかどうかです。活版印刷は活字を組み合わせて版を作るのに対し、電算写植はデジタルデータから直接印字するため版を作りません。そのため、電算写植の方が印刷までの工程が短く、小ロットの印刷物にも対応できます。また、電算写植は文字の大きさや書体などを自由に調整できるため、デザイン性の高い印刷物を作ることができます。

1-4. 電算写植の普及と衰退

電算写植は、その効率性とデザイン性の高さから、新聞や雑誌、書籍など様々な印刷物に利用されるようになりました。電算写植を操作する「電算写植オペレーター」という職業も生まれ、印刷業界を支える重要な役割を果たしました。しかし、1990年代に入ると、パソコンやDTPソフトの普及により、電算写植は徐々に衰退していきます。DTPとは、パソコン上で文書の作成からレイアウト、印刷までを行うことができる仕組みのことです。DTPの登場により、誰でも簡単にデザイン性の高い印刷物を作れるようになり、電算写植の需要は減少していきました。

2. 電算写植オペレーターの仕事内容

2-1. 入力作業

電算写植オペレーターの主な仕事は、原稿を写植機に入力することです。原稿は手書きの場合もあれば、ワープロで作成されたものもあります。オペレーターは、原稿の内容を正確かつ迅速に入力する必要があります。また、文字の大きさや書体、行間などの指定に従って入力する必要があります。

2-2. 校正作業

入力したデータは、誤字脱字やレイアウトのミスがないか確認する必要があります。電算写植オペレーターは、校正刷りをもとに、入力データと原稿を見比べながら、間違いがないかチェックします。間違いがあれば、写植機を使って修正します。

2-3. レイアウト作業

電算写植オペレーターは、文字だけでなく、図や写真などのレイアウトも行います。文字と図や写真の配置バランスを考えながら、見やすく美しいレイアウトを作成します。また、クライアントの要望に応じて、デザイン性の高いレイアウトを作成することもあります。

2-4. 機械のメンテナンス

電算写植機は、定期的なメンテナンスが必要です。電算写植オペレーターは、機械の清掃や調整など、基本的なメンテナンス作業を行います。また、機械の調子が悪い場合は、専門の技術者に修理を依頼します。

2-5. 電算写植オペレーターに必要なスキル

電算写植オペレーターに必要なスキルは、正確なタイピングスキル、校正スキル、レイアウトスキルなどです。また、クライアントとのコミュニケーション能力や、チームワークも求められます。電算写植は、DTPの普及により衰退しましたが、電算写植オペレーターが培ったスキルは、DTPオペレーターやWebデザイナーなど、他の職業でも活かすことができます。

3. 写植機の種類と特徴

3-1. 第1世代写植機:写真製版方式

初期の写植機は、写真製版方式が主流でした。この方式では、文字の原版をフィルムに撮影し、それを感光紙に焼き付けて印字します。代表的な機種としては、モリサワの「シャケン」や写研の「SAPTON」などがあります。写真製版方式の写植機は、高品質な印字が可能でしたが、製版や現像などの工程が必要なため、時間がかかりコストも高かったのが難点でした。

3-2. 第2世代写植機:CRT方式(陰極線管方式)

1970年代になると、CRT方式の写植機が登場します。CRT方式とは、ブラウン管に文字を表示させ、それを感光紙に露光して印字する仕組みです。代表的な機種としては、モリサワの「MC-64」や写研の「SK-100」などがあります。CRT方式の写植機は、写真製版方式に比べて印字速度が速く、コストも低くなりました。

3-3. 第3世代写植機:レーザー方式

1980年代に入ると、レーザー方式の写植機が登場します。レーザー方式とは、レーザー光で感光紙に直接文字を印字する仕組みです。代表的な機種としては、モリサワの「LASERCOMP」や写研の「MCS」などがあります。レーザー方式の写植機は、印字速度が速く、高品質な印字が可能なだけでなく、メンテナンスも容易になりました。

3-4. 写植機のメーカー

写植機の主なメーカーとしては、モリサワ、写研、リョービなどがあります。モリサワは、写真製版方式からレーザー方式まで、様々な写植機を開発してきました。写研は、書体の美しさに定評があり、多くのデザイナーに支持されていました。リョービは、小型で低価格な写植機を開発し、中小企業を中心に普及しました。

4. 電算写植のメリットとデメリット

4-1. 電算写植のメリット

電算写植には、活版印刷に比べて多くのメリットがありました。まず、文字の大きさや書体、行間などを自由に調整できるため、デザイン性の高い印刷物を作成することが可能でした。また、デジタルデータとして文字情報を管理できるため、修正や再利用が容易でした。さらに、版を作る必要がないため、印刷までの工程が短く、小ロットの印刷物にも対応できました。これらのメリットにより、電算写植は印刷業界に革命をもたらしました。

4-2. 電算写植のデメリット

電算写植にも、いくつかのデメリットがありました。まず、初期投資が高額であったため、導入できる企業は限られていました。また、機械の操作には専門的な知識が必要であり、電算写植オペレーターの育成にも時間とコストがかかりました。さらに、機械のメンテナンスやトラブル対応も専門の技術者が必要であり、運用コストも高額でした。

5. DTPの登場と写植の衰退

5-1. DTPの登場

1980年代後半になると、パソコンやDTPソフトの普及により、印刷業界に大きな変化が訪れます。DTPとは、DeskTop Publishingの略で、パソコン上で文書の作成からレイアウト、印刷までを行うことができる仕組みのことです。DTPソフトを使えば、誰でも簡単にデザイン性の高い印刷物を作れるようになり、電算写植の需要は徐々に減少していきました。

5-2. 写植の衰退

DTPの普及とともに、電算写植は衰退の一途をたどります。写植機メーカーは、DTPソフトの開発や販売に乗り出しますが、時代の流れを変えることはできませんでした。1990年代後半には、ほとんどの印刷会社がDTPに移行し、電算写植は姿を消していきました。電算写植オペレーターという職業も、DTPオペレーターやWebデザイナーなどに転身していきました。

5-3. 電算写植の功績

電算写植は、印刷業界に大きな変革をもたらしました。活版印刷に比べて効率的に印刷物を作成できるようになっただけでなく、デザイン性の高い印刷物を作ることも可能になりました。電算写植の登場により、印刷物の表現力は飛躍的に向上し、出版文化の発展に大きく貢献しました。

タイトルとURLをコピーしました