BIS規制とは?経済用語について説明

BIS規制の各項目概要
項目 内容
BIS規制とは 国際決済銀行(BIS)が定める国際的な銀行規制。自己資本比率や流動性比率などを規定する。
BIS規制の目的と役割 銀行の健全性を確保し、金融システム全体の安定性を維持すること。
BIS規制の歴史 1988年(バーゼルI)から始まり、2004年(バーゼルII)、2017年(バーゼルIII)と段階的に見直されてきた。
BIS規制の適用範囲 国際的に活動する銀行(国際統一基準行)を対象とする。日本は国内基準行についても独自の規制を設けている。
BIS規制と金融リスク 信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクの3つのリスクを考慮して自己資本比率が算出される。
BIS規制の将来展望 金融技術(フィンテック)の進展や気候変動などの新たなリスクへの対応が求められる。

1. BIS規制とは

要約

BIS規制の概要

BIS規制とは、国際決済銀行(Bank for International Settlements:BIS)が公表している国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際統一基準のことです。バーゼル合意とも呼ばれ、日本を含む多くの国で銀行規制として採用されています。BIS銀行監督委員会の常設事務局が国際決済銀行(BIS)にあることから、BIS規制と呼ばれることもありますが、BISとバーゼル銀行監督委員会は別組織のため、「バーゼル規制」がより正しい呼称と言えます。

BIS規制は、1988年に最初に策定され(バーゼルI)、2004年に改定されました(バーゼルII)。その後、2007年夏以降の世界的な金融危機を契機として、再度見直しに向けた検討が進められ、2017年に新しい規制の枠組み(バーゼルIII)について最終的な合意が成立しました。

バーゼルIは、国際的な銀行システムの健全性の強化と、国際業務に携わる銀行間の競争上の不平等の軽減を目的として策定されました。これにより、銀行の自己資本比率の測定方法や、達成すべき最低水準(8%以上)が定められました。

わが国では、1992年度末から、バーゼルIが本格的に適用されました。

BIS規制の主な内容
項目 内容
バーゼルI 1988年策定。信用リスクを対象とし、自己資本比率8%以上を義務付けた。
バーゼルII 2004年改定。リスク計測を精緻化し、市場リスクとオペレーショナルリスクを追加。
バーゼルIII 2017年合意。金融危機への対応として、自己資本比率規制を厳格化し、流動性規制やレバレッジ比率規制を導入。

バーゼルII

バーゼルIIは、(1)最低所要自己資本比率規制(リスク計測の精緻化)、(2)銀行自身による経営上必要な自己資本額の検討と当局によるその妥当性の検証、(3)情報開示の充実を通じた市場規律の実効性向上、を3つの柱として策定されました。

バーゼルIIでは、達成すべき最低水準(8%以上)はバーゼルIと変わらないものの、銀行が抱えるリスク計測(自己資本比率を算出する際の分母)の精緻化が行われました。

わが国では、2006年度末から(先進的なリスクの計測手法を採用する一部の銀行は翌2007年度末から)バーゼルIIに移行しました。

バーゼルIII

バーゼルIIIは、世界的な金融危機の再発を防ぎ、国際金融システムのリスク耐性を高めることを目的として策定されました。

具体的には、銀行が想定外の損失に直面した場合でも経営危機に陥ることのないよう、自己資本比率規制が厳格化されました。また、急な資金の引き出しに備えるための流動性規制や、過大なリスクテイクを抑制するためのレバレッジ比率規制等が導入されることになりました。

規制を設計する際、金融システム全体の安定性を維持するというマクロ・プルーデンスの観点が重視されている点も一つの特徴です。

バーゼルIIIは、わが国を含む世界各国において2013年から段階的に実施されており、最終的には、2028年初から完全に実施される予定になっています。

まとめ

BIS規制は、国際的に活動する銀行の健全性を確保するための国際的な資本規制です。銀行が経済的な危機やリスクに対して十分な資本を持っていることを確保することで、銀行が倒産した場合や金融危機が発生した場合でも、金融システム全体の安定性を維持することを目指しています。

BIS規制は、国際的に活動する大手銀行を中心に、多くの国で採用されており、銀行の健全性や信頼性の基準として利用されています。

2. BIS規制の目的と役割

要約

銀行業の公共性

銀行業は、預金という商品を取り扱うがゆえ、一国の貨幣制度・決済制度の担い手であり、これらはあらゆる経済活動の基盤となります。例えば、銀行が破綻することにより決済システムが滞ることがあれば経済全体に多大なマイナスの影響を与えることは明らかでしょう。

銀行業以外でも、電力など基盤的なサービスを提供している産業は政府による広範な規制を受けていますが、銀行にもその意味で健全な運営をするよう規制を課す必要性が生まれるわけです。これは「銀行業の公共性」とも言える機能です。

預金者保護

預金者は銀行の経営状態を的確に評価する能力に欠ける、あるいは、その努力は割に合わないといえます。人々がある銀行を用いている理由は、その銀行を綿密に分析した結果ではなく、その銀行に対する漠然とした信認に依存していることは読者も実感が あるはずです。

別の見方をすれば、仮にある銀行の信認が崩壊した場合、取り付けなどを通じて金融危機が起こる可能性を有しているといえます。そのため、政府は預金者の保護を図るとともに、銀行に対する監視者(モニター)としての役割を果たす必要があるわけです。

ちなみに、このような銀行業の公共性の維持や預金者保護を目的とした政策を「プルーデンス政策」ということもあります。

自己資本比率規制

自己資本比率規制とは、銀行がとっているリスク量と紐づくリスク・アセットを算出したうえで、自己資本比率、すなわち、自己資本比率=自己資本/リスク・アセットが8%以上など、一定以上になるような運用が規制当局から求められています。

BIS規制では、この自己資本比率規制だけでなく、流動性規制も存在しています。銀行に流動性資産を一定程度求める規制などから構成されており、上述の取り付けなどの問題を軽減します。

もっとも、本稿では紙面の関係から、自己資本比率規制に焦点をあてます。

自己資本比率規制の計算式
項目 内容
自己資本比率 自己資本 ÷ リスク・アセット
リスク・アセット 銀行が保有する資産のリスク量を反映した数値。資産の種類やリスクに応じてウェイトが設定される。

まとめ

BIS規制は、銀行の破綻に伴う預金者の保護やシステミック・リスクを防ぐことを企図しています。

自己資本比率規制は、銀行が有する最大損失額であるリスク量を見積もったうえで、その同額以上を株式で資金調達していれば、そのリスクが顕在化した際、彼らに責任を取ってもらうことができます。

BIS規制では、自己資本比率規制だけでなく、流動性規制も存在しています。

3. BIS規制の歴史

要約

バーゼル規制導入の経緯

バーゼル規制は、1974年の西ドイツのヘルシュタット銀行とニューヨークのフランクリン・ナショナル銀行の破綻に伴う混乱を発端としています。

こうした金融危機に対処するため、1974年に、G10中央銀行総裁会議はG10諸国の中央銀行と銀行監督当局からなる協議の場として「銀行業の規制と監督実務に関する委員会(Committee on Banking Regulation and Supervisory Practices)」を設けることを決定しました。

その後、1982年にラテンアメリカで債務危機が起きます。この危機の詳細は国際金融などのテキストに譲りますが、BCBSでは自己資本の充実とともに、国際的に統一的なルールの必要性が共有されました。

その後、米国と英国からバーゼル規制のプロトタイプともいえる「米英共同提案」が提示され、それが日本や欧州諸国との議論の中で修正され、1988年にバーゼルで国際的な銀行への規制の合意がなされました。

バーゼルI

当初の規制は現在のような複雑なものではなく、株主資本による基礎的な項目(Tier1)に加え、劣後債や有価証券含み益で構成される補完的項目(Tier2)の合計がリスク・アセット対比で8%以上になることを求めるというものです。

また、リスク・アセットについても、企業向け与信、銀行向け与信、住宅ローン、国債保有額について一定のウェイトを掛け合わせるものであり、現状と比較すると非常にシンプルな形でした。

日本における特徴は、国際的に活動する銀行を「国際統一基準行」としたうえで、海外に支店や現地法人を持つ銀行のみに対象を絞った点です。

その一方、(前述の通り)我が国で、グローバルにビジネスを展開しない銀行については「国内基準行」としたうえで、国内基準行については従来のままである4%とされました。

バーゼルII

バーゼルIIで強調された点はリスク・アセットの測定を精緻化することです。1990年以降、Value at Risk(VaR)などそれまでにないリスク管理の高度化が進みました。

前述のとおり、銀行が有する資産のリスク量を反映したリスク・アセットを算出しますが、当時の手法は非常にシンプルであり、実態を反映していないという問題意識が共有されました。

また、バーゼル規制が、銀行のリスク管理手法と大きく異なる手法を用いていると、銀行の意思決定にゆがみを生じさせてしまうというリスクも考えられました。

上記を受けて、リスク・アセットの測定方法は大幅に修正されました。現在、リスク・アセットは、信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスクで構成されますが、この3つが揃ったのもこのタイミングです。

まとめ

バーゼル規制は、金融危機の経験を踏まえて、段階的に見直されてきました。

バーゼルIでは、信用リスクのみが自己資本比率規制の対象でしたが、バーゼルIIでは、市場リスクとオペレーショナルリスクが追加されました。

バーゼルIIIでは、自己資本の質の向上、流動性規制、レバレッジ比率規制などが導入されました。

4. BIS規制の適用範囲

要約

国際統一基準行

バーゼル規制は、国際的に活動する銀行(海外に営業拠点を有する銀行)をその適用対象としています。

これらの銀行は、国際統一基準たるバーゼル規制の適用対象という観点から、「国際統一基準行」と呼ばれています。

国内基準行

もっとも、わが国では、国際統一基準行に該当しない、「国内基準行」についても、わが国オリジナルの自己資本比率規制を定めています。

その、国内基準行向けの自己資本比率規制は、2013年に、バーゼルⅢを踏まえた大改編がされました。

このシリーズでは、この大改編を経た国内基準行向けの自己資本比率規制を、「国内基準行向けバーゼルⅢ」と表記します。

ここでも、「自己資本」の定義が厳格化されました。国内基準行向けバーゼルⅢは、2014年3月末から適用が開始されています。

証券会社

我が国では独立系大手証券会社が存在していますが、それらの証券会社については金融商品取引法上の概念である「最終指定親会社」としたうえで、最終指定親会社に対してバーゼル規制が課されています。

また、我が国の大手証券会社には銀行持株会社の下にぶら下がっているものも少なくなく、このような証券会社には銀行持株会社にバーゼル規制が適用されています。

最終指定親会社でない独立系の証券会社には金融商品取引法上で(バーゼル規制と異なる)自己資本比率規制が課されています。

まとめ

BIS規制は、国際的に活動する銀行を対象としていますが、日本においては、国内基準行についても、バーゼル規制と整合的な規制が課されています。

また、証券会社についても、最終指定親会社など、金融商品取引法上の概念に基づいて、バーゼル規制が適用されています。

5. BIS規制と金融リスク

要約

信用リスク

信用リスクとは、融資に伴う回収不能リスクのことです。

バーゼル規制では、信用リスクをより正確に計測するために、標準的手法と銀行が独自で開発する内部格付け方法の2つの方法が用いられています。

標準的手法では、外部の格付け会社の格付けを採用して、リスク・ウエイトをつけ、リスク資産を測定しようとする方法です。

銀行が独自で開発する内部格付け方法では、銀行自身で、融資先や有価証券発行先のデフォルト(返済不能)確率を独自に開発し、リスク・ウエイトをつけ、リスク資産を計測しようとする方式です。

信用リスクの計測方法
方法 内容
標準的手法 外部格付け会社による格付けに基づいてリスク・ウエイトを算出。
内部格付け手法 銀行自身で融資先や有価証券発行先のデフォルト確率を独自に算出し、リスク・ウエイトを算出。

市場リスク

市場リスクとは、自己勘定による有価証券売買(トレーデイング)リスクのことです。

バーゼル規制では、市場リスクについては、第二次見直しでは検討対象になっていません。

オペレーショナルリスク

オペレーショナルリスクとは、事務処理や不正行為などによって損失が発生することに伴うリスクのことです。

バーゼル規制では、オペレーショナルリスクを計量化するために、過去の経験的損失やリスクの態様を調べ、これらを計数化して、自己資本に反映させようとするものです。

業務内容が多様化し、銀行毎にリスクが異なるため、オペレーショナルリスクの計量化は非常に難しい課題です。

オペレーショナルリスクの計量方法
方法 内容
基礎的指標手法 銀行全体の粗利益に一定の掛け目を適用。
標準的手法 ビジネスライン毎に定義された指標に一定の掛け目を適用。
内部計測手法 過去の損失データなどを用いて計算。

まとめ

BIS規制では、信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクの3つのリスクを考慮して、自己資本比率が算出されます。

バーゼル規制では、これらのリスクをより正確に計測するために、標準的手法と銀行が独自で開発する内部格付け方法の2つの方法が用いられています。

オペレーショナルリスクの計量化は、近年、業務の高度化、機械化の急速な発展によって、ますます重要になってきています。

6. BIS規制の将来展望

要約

BIS規制の課題

BIS規制は、金融システムの安定化に大きく貢献してきましたが、一方で、いくつかの課題も存在しています。

例えば、BIS規制が過度に厳格化すると、銀行の貸出意欲が減退し、経済活動が停滞する可能性があります。また、BIS規制の複雑化は、銀行のコンプライアンスコストの増加につながる可能性もあります。

さらに、BIS規制は、国際的な合意に基づいて策定されていますが、各国間の経済状況や金融システムの違いを十分に考慮できていないという指摘もあります。

今後の展望

BIS規制は、今後も金融システムの安定化に向けて、進化していくことが予想されます。

特に、金融技術(フィンテック)の進展や、気候変動などの新たなリスクへの対応が求められています。

BIS規制は、これらの変化に対応し、金融システムの安定性を維持するための重要な役割を果たしていくことが期待されます。

日本の戦略的対応

日本は、BIS規制の将来展望を踏まえ、戦略的な対応を検討していく必要があります。

具体的には、BIS規制の遵守と、国内経済の活性化を両立させるための政策を策定する必要があります。

また、金融当局は、銀行の自己管理と市場規律を促進するための体制を強化し、情報開示の促進などを通じて、市場規律の機能を高める必要があります。

まとめ

BIS規制は、金融システムの安定化に重要な役割を果たしていますが、課題も多く存在します。

日本は、BIS規制の将来展望を踏まえ、戦略的な対応を検討していく必要があります。

BIS規制の遵守と、国内経済の活性化を両立させるための政策を策定し、金融当局は、銀行の自己管理と市場規律を促進するための体制を強化していく必要があります。

参考文献

Bis規制 | 金融・証券用語解説集 | 大和証券

バーゼル合意、バーゼルI、II、IIIとは何ですか? いわゆるBIS規制とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan

新BIS規制とは|金融業務用語集|iFinance

bis規制を徹底解説!規制内容と自己資本比率の算出法とは | THE OWNER

bis規制とは?バーゼル規制にあわせて解説! | HUPRO MAGAZINE | 士業・管理部門でスピード内定|ヒュープロ

BIS規制|証券用語解説集|野村證券

PDF バーゼル規制入門 – 財務省

自己資本比率規制等(バーゼル規制)について – 金融庁

PDF バーゼルⅢの初歩 第2回 バーゼル規制の変遷は?

BIS規制 | Money Journey

Bis規制(ビスきせい)とは? 意味や使い方 – コトバンク

わかりやすい用語集 解説:Bis規制(びすきせい) | 三井住友dsアセットマネジメント

BIS規制|リスク管理Navi [用語集]

バーゼル規制│SMBC日興証券

7月25日 米国商務省BIS 規則案を発表|ExportControl

PDF 新bis規制に対する日本の戦略的対応 – Bgu

Bis規制(びすきせい) | 証券用語集 | 東海東京証券株式会社

BIS規制 – findai.com

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