パテント・トロールとは?経済用語について説明

パテント・トロールに関する項目一覧
項目	内容
定義	特許権を所有し、自ら製品を製造・販売せず、特許権を侵害している企業に特許権を行使して巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする者
歴史	1990年代後半にインテル社の副会長であったピーター・デトキン氏が用いたことから一般的になった
ビジネスモデル	ファンド形式で投資家から資金調達し、市場に流通する特許を買い集め、事業会社に権利行使をして和解金を得る
問題点	特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されている
企業との関係性	企業から安価に特許を買い取ったうえで、主にハイテク企業を相手に訴訟を提起している
将来と展望	先進各国ではパテントトロールに対する対策を講じており、不当な訴訟を阻止するための企業連合を設立するなどの動きを見せている

1. パテントトロールの定義とは
2. パテントトロールの歴史と背景
3. パテントトロールのビジネスモデルとは
4. パテントトロールの問題点と批判
5. パテントトロールと企業の関係性
6. パテントトロールの将来と展望

1. パテントトロールの定義とは

パテントトロールの定義

パテント・トロール（英: patent troll）または特許トロール（とっきょトロール）は、一般的には定義が困難であるが、自らが保有する特許権を侵害している疑いのある者（主にハイテク大企業）に特許権を行使して巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする者を指す英語の蔑称で、その多くは、自らはその特許を実施していない（特許に基づく製品を製造販売したり、サービスを提供したりしていない）。

「トロール」(troll)とは、もともと北欧神話で洞穴や地下等に住む奇怪な巨人または小人を意味し、「怪物」というような意味合いで使われている。また、英語の\”troll\”には「流し釣り」（トローリング）という意味もあり、「パテント・トロール」はこの意味合いも含んでいるともされる。

「パテント・トロール」という語の初期の用例は、『フォーブス』誌1993年3月29日号の\”When Intel Doesn’t Sue\”というインテル社の特許訴訟に関する記事に見られる。ただし、この記事においては「パテント・トロール」という語は日本企業を指して用いられており、その意味は現在のものと異なる。

「パテント・トロール」という語が現在の意味で一般的になったのは、インテル社の副会長（Vice President）兼副顧問（Assistant General Counsel）であったピーター・デトキン（英語版）が1990年代後半に用いたことによるとされる。デトキンは\”patent extortionist\”という語を使っていたが名誉毀損で訴えられたため、それに代わる語として\”patent troll\”を採用した。デトキンは、そのきっかけとして、職場の机にあったトロールの人形を挙げている。この人形は、トロールが登場する「三びきのやぎのがらがらどん」というノルウェーの童話が好きだった彼の娘が置いていったものである。なお、皮肉にもデトキンは後にパテント・トロールともされるインテレクチュアル・ベンチャーズの起業に加わることになる。

パテント・トロールの定義
定義	内容
パテント・トロール	特許権を所有し、自ら製品を製造・販売せず、特許権を侵害している企業に特許権を行使して巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする者
特許ゴロ	パテント・トロールの日本語での呼び方
特許主張主体（PAE）	より中立的な表現
特許不実施主体（NPE）	大学・研究機関なども含まれるため、パテント・トロールと区別するためにPAEという呼称が広まった

パテントトロールのその他の呼び方

「パテント・トロール」は、英語では、「特許搾取者」 (patent extortionist)、「特許寄生虫」 (patent parasite)、「特許の海賊」 (patent pirate)、「特許投機家」 (patent speculator) などとも呼ばれる。また、日本では「特許ゴロ」とも呼ばれる。「パテント・マフィア」との表記も見られるが、これは1990年代前半からある語で、レメルソン特許に対しても用いられる等、「パテント・トロール」と厳密に同じ意味で用いられてきたわけではない。

「パテント・トロール」は、自社事業として特許に関わる製品の製造販売・サービス提供をせず専ら自社特許の侵害者からの損害賠償金やロイヤルティ収入を主たる事業としているため、より中立的な表現として、「特許主張主体」（PAE:Patent Assertion Entity）と呼ばれることがある。

なお、以前は「特許不実施主体」（NPE:Non-Practicing Entity）と称されることがあったが、これには、大学・研究機関等（特許権は所有するが、積極的に侵害訴訟等で損害賠償・ロイヤルティ獲得することはない）が含まれるため、いわゆるパテントトロールと区別するため、PAEという呼称が広まった。

パテント・トロールのその他の呼び方
英語での呼び方	日本語訳
patent extortionist	特許搾取者
patent parasite	特許寄生虫
patent pirate	特許の海賊
patent speculator	特許投機家

パテントトロールの活動

パテント・トロールは小規模な企業であることが多い。パテント・トロールは、元来メーカーであり自社製品の製造販売のために特許権を取得した企業が、製品事業の中止や売却により保有特許が死蔵特許化したことによって、それを活用してライセンス料獲得をはじめたのが起源であるとの事例分析がある。

しかし、その後パテント・トロールの事業性が知られるにつれて、パテント・トロール自身は当初から研究や製造の設備を持たず、自らの研究開発によっては特許権の取得を行わないことが多くなっている。自ら発明を行って特許権を取得することよりも、特許権を侵害している企業を見つけて権利を行使し、巨額の損害賠償金やライセンス料を得る目的で個人発明家や企業などから安価に特許権を買い集め、いつでも特許権侵害訴訟を起こせるように、特許ポートフォリオの拡充に努めているとされる。

当然のことながらパテント・トロールとよばれる者自身が自らパテント・トロールと称することはなく、表向きはソフトウェア開発などの事業を会社の事業内容として掲げていることもある。これは利益目的ではなく、裁判に備えて自社実施をアピールするために製品開発を行っていることをアピールする目的が大きい。

パテント・トロールの活動
活動内容	説明
特許権の取得	個人発明家や企業などから安価に特許権を買い集める
特許権の行使	特許権を侵害している企業を見つけて権利を行使し、巨額の損害賠償金やライセンス料を得る
自社実施のアピール	裁判に備えて自社実施をアピールするために製品開発を行う場合もある

まとめ

パテント・トロールは、特許権を所有しながら、自ら製品を製造・販売したり、サービスを提供したりせず、特許権を侵害している企業に特許権を行使して巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする者を指します。

特許権を所有している企業が、製品事業の中止や売却により保有特許が死蔵特許化したことによって、それを活用してライセンス料獲得をはじめたのが起源であると考えられています。

パテント・トロールは、自らをパテント・トロールと称することはなく、表向きはソフトウェア開発などの事業を会社の事業内容として掲げている場合もあります。

2. パテントトロールの歴史と背景

パテントトロールの歴史

パテント・トロールという用語は、1990年代に、インテル社がテック・サーチ社というパテントトロールの走りに特許侵害訴訟を起こされた際に、当時インテルの副法務部長だったピーター・デトキン氏の発言に由来すると言われています。

デトキン氏は、\”patent extortionist\”という語を使っていたが名誉毀損で訴えられたため、それに代わる語として\”patent troll\”を採用したとされています。

皮肉なことに、デトキン氏は後に、パテントトロールの一種であるIntellectual Venturesの創業メンバーに名を連ねることになります。

パテント・トロール用語の由来
用語	由来
パテント・トロール	インテル社の副会長であったピーター・デトキン氏が1990年代後半に用いたことから一般的になった

パテントトロールの増加

アメリカ政府の発表によると、高収益を誇るハイテク企業をターゲットにしたパテント・トロールによる訴訟件数が急増し、2012年にはアメリカにおけるすべての特許訴訟のうち62％をパテント・トロールによる裁判が占めるようになっている。

またパテント・トロールに敗訴した企業が2011年に負担した直接コストは訴訟外の対応を含めて290億ドルに上り、2005年比で400％増えているという。

こうした事態を受け、グーグル社Googleなどのハイテク企業は、パテント・トロールがイノベーションを阻害していると主張し、パテント・トロールを取り締まるよう、多くのハイテク企業と共同でキャンペーンを張った。

こうした経済界の声を受け、アメリカのオバマ大統領は2013年6月に訴訟を目的に特許権を買い集めている企業への規制を強化することを明らかにした。

パテント・トロールによる訴訟件数の増加
年	訴訟件数
2012年	アメリカにおけるすべての特許訴訟のうち62％をパテント・トロールによる裁判が占める
2011年	パテント・トロールに敗訴した企業が負担した直接コストは訴訟外の対応を含めて290億ドルに上る

パテントトロールの増加要因

パテント・トロールが増加している主な原因の1つに、世界中で特許付与件数が増加していることが挙げられます。

世界知的所有権機関（World Intellectual Property Organization

特に米国などの先進国では、特許申請件数の伸び率が急激に高まっています。評論家の中には、これはイノベーションの急増というより、特許付与機関の水準が低いことを示している、と主張する人もいます。

特許庁が承認する特許の多くは、対象範囲が広すぎて一般的過ぎるというのがその理由です。その結果トロールが、さまざまな理由をつけて、多くの企業を特許侵害の標的にできるようになってしまうのです。企業側としては、自分たちが知的所有権を侵害しているのかどうかを確認することが難しいため、トロールの餌食となってしまいます。

パテント・トロール増加の要因
要因	説明
特許付与件数の増加	世界知的所有権機関（WIPO）の報告によると、2012年の特許申請数は世界で9.2%増加
特許付与機関の水準の低さ	特許庁が承認する特許の多くは、対象範囲が広すぎて一般的過ぎるため、パテント・トロールが多くの企業を特許侵害の標的にできるようになっている

まとめ

パテント・トロールは、1990年代後半にインテル社の副会長であったピーター・デトキン氏が用いたことから一般的になりました。

2012年にはアメリカにおけるすべての特許訴訟のうち62％をパテント・トロールによる裁判が占めるようになり、ハイテク企業を中心に被害が頻発しています。

パテント・トロールの増加要因として、世界中で特許付与件数が増加していることが挙げられます。特許庁が承認する特許の多くは、対象範囲が広すぎて一般的過ぎるため、パテント・トロールが多くの企業を特許侵害の標的にできるようになっています。

3. パテントトロールのビジネスモデルとは

パテントトロールの資金調達

多くのパテントトロールは、ファンド形式で構成されるそうです。ファンド形式で投資家から資金調達をし、市場に流通する特許（主に倒産や業績不振によって企業が手放すことになった特許）を買い集めます。

パテントトロールが好んで買い集めるのが、いわゆる標準特許（SEP: Standard Essential Patent）というものでして、これは、技術標準として様々な企業の製品に組み込まれている技術をカバーする特許のことです。

このような特許は、多くの企業の製品で使われており、且つ侵害発見・立証も容易であるため、効率良く資金回収（つまり企業からお金を取れる）ができます。

パテント・トロールの資金調達方法
方法	説明
ファンド形式	投資家から資金調達し、市場に流通する特許を買い集める
標準特許（SEP）の取得	多くの企業の製品で使われており、侵害発見・立証も容易であるため、効率良く資金回収ができる

パテントトロールの収益化

パテントトロールは、入手した特許を使って事業会社に権利行使をし、和解金をもらいます。

なるべく短期間で「獲得した解決金＞投資額」となれば儲けも大きくなります。パテントトロールは訴訟費用の相場もよく知っていますので、和解金として訴訟にかかる費用よりも安い和解金を提示することで、支払いをしたほうが得のように思わせてくるようです。

このようなテクニックを駆使して、短期間でなるべく高い金額を儲けることができます。

パテント・トロールの収益化方法
方法	説明
権利行使	入手した特許を使って事業会社に権利行使をし、和解金をもらいます
和解金の提示	訴訟にかかる費用よりも安い和解金を提示することで、支払いをしたほうが得のように思わせる

パテントトロールのターゲット

パテントトロールの主なターゲットは、高額な訴訟を行う余裕のない中小企業や開発者です。

狙われた開発者は裁判所で敗訴になった場合の「高額な賠償金」を回避するため、比較的少額な「ライセンス使用料」を支払ってしまいます。

そして、トロールたちは新たな標的を狙い始めており、その中にはしばしば「通常の製品」も含まれています。

パテント・トロールのターゲット
ターゲット	説明
中小企業	高額な訴訟を行う余裕がない
開発者	裁判所で敗訴になった場合の「高額な賠償金」を回避するため、比較的少額な「ライセンス使用料」を支払ってしまう

まとめ

パテント・トロールは、ファンド形式で投資家から資金調達をし、市場に流通する特許を買い集めます。

特に、標準特許（SEP）は、多くの企業の製品で使われており、侵害発見・立証も容易であるため、効率良く資金回収ができます。

パテント・トロールは、入手した特許を使って事業会社に権利行使をし、和解金をもらいます。

パテント・トロールの主なターゲットは、高額な訴訟を行う余裕のない中小企業や開発者です。

4. パテントトロールの問題点と批判

パテントトロールの問題点

パテント・トロールは、特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されています。

パテント・トロールは、自社では製品の製造やサービスの提供を行っておらず、他社の特許を侵害するリスクがないので、強気に権利行使することができる。

訴えられる企業の側としては、パテント・トロールに対し特許侵害で反訴することはできず、パテント・トロールは製品の製造販売・サービス提供を行っていないため差止請求による牽制もできないため、クロスライセンス契約による解決は実質的には不可能である。

パテント・トロールの問題点
問題点	説明
強気な権利行使	自社では製品の製造やサービスの提供を行っておらず、他社の特許を侵害するリスクがないので、強気に権利行使することができる
反訴の困難さ	訴えられる企業の側としては、パテント・トロールに対し特許侵害で反訴することができない
クロスライセンス契約の不可能	パテント・トロールは製品の製造販売・サービス提供を行っていないため差止請求による牽制もできないため、クロスライセンス契約による解決は実質的には不可能である

パテントトロールによる経済的損失

パテント・トロールに敗訴した企業が2011年に負担した直接コストは訴訟外の対応を含めて290億ドルに上り、2005年比で400％増えているという。

企業は、法廷闘争に巻き込まれることで商品の発売が遅れたり、株価が下落することもあり、訴訟費用以外の経済的損失を被ることもあります。

パテント・トロールによる経済的損失
項目	内容
直接コスト	2011年にパテント・トロールに敗訴した企業が負担した直接コストは訴訟外の対応を含めて290億ドルに上る
間接コスト	商品の発売が遅れたり、株価が下落したりする

パテントトロールに対する批判

パテント・トロールは、特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されています。

パテント・トロールに対する批判
批判内容	説明
イノベーションの阻害	特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されている
企業の負担増加	訴訟費用や和解金などの経済的負担が増加する

まとめ

パテント・トロールは、特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されています。

5. パテントトロールと企業の関係性

パテントトロールと企業の関係

パテント・トロールは、企業から安価に特許を買い取ったうえで、主にハイテク企業を相手に訴訟を提起しており、大手・中小に関わらずハイテク企業を中心に被害が頻発しています。

パテント・トロールが安価に特許を買い取って入手できる背景には、自社が保有する特許のうち、自社の事業活動において活用していない特許を短期的に収益化しようとする動きが大きく関係していると言われています。

パテント・トロールと企業の関係
関係	説明
特許の売却	企業が保有する特許のうち、自社の事業活動において活用していない特許を短期的に収益化するためにパテント・トロールに売却する場合がある
訴訟の標的	パテント・トロールは、企業から安価に特許を買い取ったうえで、主にハイテク企業を相手に訴訟を提起している

パテントトロールとライバル企業の関係

例えばライバル企業を攻撃したいあるテクノロジー企業は、ライバル製品に関連する自社の特許をパテントトロールに売る。

特許訴訟では通常、訴えられた企業は反訴して対抗するが、パテントトロールが相手の場合、対象となる製品やサービスがないため、反訴できない。

つまり、そのテクノロジー企業は、パテントトロールを隠れみのにしてライバルを攻撃していることになる。

パテント・トロールとライバル企業の関係
関係	説明
ライバル攻撃	ライバル企業を攻撃したいあるテクノロジー企業は、ライバル製品に関連する自社の特許をパテントトロールに売る
反訴の困難さ	特許訴訟では通常、訴えられた企業は反訴して対抗するが、パテントトロールが相手の場合、対象となる製品やサービスがないため、反訴できない

パテントトロールと大学の関係

大学は、商業目的で特許を利用したい企業に対して、金銭の支払いを求めます。

一方、大学における発明は学術目的であり、社会に対する善行を目指すものであって、パテントトロールのように企業からお金を巻き上げようと目論んでいるわけではないため、両者を同様に論じるべきではないとする意見もあります。

ライセンス料で利益を上げようとしてトロールとみなされた企業と契約を結んだために、批判を受けている大学もあります。

パテント・トロールと大学の関係
関係	説明
特許のライセンス	大学は、商業目的で特許を利用したい企業に対して、金銭の支払いを求めます
批判	ライセンス料で利益を上げようとしてトロールとみなされた企業と契約を結んだために、批判を受けている大学もある

まとめ

ライバル企業を攻撃したいあるテクノロジー企業は、ライバル製品に関連する自社の特許をパテントトロールに売ることで、パテントトロールを隠れみのにしてライバルを攻撃しているケースもあります。

6. パテントトロールの将来と展望

パテントトロール対策

先進各国ではパテントトロールに対する対策を講じており、不当な訴訟を阻止するための企業連合を設立するなどの動きを見せています。

日本でも経済産業省が介入して第三者委員会による裁定を導入する動きがあり、対策の制度化に注目が集まっています。

パテント・トロール対策
対策	説明
企業連合	不当な訴訟を阻止するための企業連合を設立
第三者委員会	経済産業省が介入して第三者委員会による裁定を導入する動きがある

パテントトロールの将来

パテント・トロールは、特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されています。

パテント・トロールの将来
将来	説明
イノベーションの阻害	特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されている
企業の負担増加	訴訟費用や和解金などの経済的負担が増加する

パテントトロールとイノベーション

パテント・トロールは、特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されています。

パテント・トロールとイノベーション
関係	説明
イノベーションの阻害	特許制度を悪用し、イノベーションを阻害する存在として批判されている
企業の負担増加	訴訟費用や和解金などの経済的負担が増加する