1. 買収防衛策とは
買収防衛策の必要性
買収防衛策とは、企業が敵対的な買収をされないために導入する対策のことです。敵対的な買収は、相手の企業の取締役会との合意を得ることなく、会社の買収を行うことで、TOBを用いて行われる方法が一般的です。敵対的買収は、企業の株主をはじめ、あらゆるステークホルダーにとって良い結果にはならないことも多いです。そのため、すべてのステークホルダーをはじめ、企業の株主の利益を守るために買収防衛策が必要であるという考え方もあります。会社経営においては、その経営者であるからこそ維持できる各ステークホルダーとの良好な関係性など「目には見えない価値」があります。買収により経営陣が変われば、ステークホルダーと企業の間に構築されていた良好な関係性が失われ、それが企業の収益性の低下、および企業価値の低下につながることもあるでしょう。
買収防衛策の必要性については、異なった二つの見方があります。企業買収は、敵対的買収であったとしても、株主にとって100%不利益につながるわけではありません。他社による買収はむしろ、株主の利益を損なう経営を行う経営陣を改良する良い機会ともなり得ます。現経営者が企業価値の向上のための経営改善努力を怠っている場合、その企業は市場で過小評価(時価総額が低くなる)されることでしょう。そのため、その企業を買収することにより経営陣を交代し、より効率的な経営体制を構築できれば、企業価値を高めることが可能です。一番の買収防衛策は、経営陣の経営努力によって企業価値の最大化し、他社による買収を防ぐことである、という考え方とも捉えられます。
2005年5月27日に法務省が発表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」にて提示されている、以下の3つの指針に基づくことが重要です。①企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則 買収防衛策は経営陣の保身のためでなく、企業価値や株主の利益を守るためのものでなければならない ②事前開示・株主意思の原則 買収防衛策の導入に際しては、その内容を事前に株主に提示したうえで判断を求めなければならない ③必要性・相当性確保の原則 買収防衛策の濫用を防ぐため、必要かつ相当な方法でなければならない
考え方 | 内容 |
---|---|
企業価値向上 | 敵対的買収は企業価値向上に繋がる可能性がある |
ステークホルダー保護 | 敵対的買収はステークホルダーに悪影響を与える可能性がある |
買収の種類
企業買収は大きく分けて以下の2つにまとめることが可能です。・友好的買収・敵対的買収
友好的買収とは、買収する企業と買収される企業の経営陣との間に、充分な合意があって実施される買収のことです。友好的買収は、同意をもとに実施されるため、買収される企業からの協力を得ることができ、手続きがスムーズに行われるというメリットがあります。買収の条件や買収後の従業員の処遇などを事前に話し合い、同意した上での買収が可能です。日本で実施されるほとんどの企業買収は、友好的買収によって行われています。元々日本には「株式持ち合い」の風習もあることから、M&Aにおいて敵対的買収を選択しづらい環境であることも関連しています。
一方、はじめは敵対的買収を仕掛けられたとしても、その途中から友好的買収に切り替わり、展開が変わる事例も多いです。敵対的買収とは、買収される企業の現経営陣から同意を得ずに行われる買収のことです。敵対的買収は、買収する企業が買収される企業の経営権を取得する目的で実施されます。敵対的買収のための株式取得は、基本的に株式公開買い付け(TOB、Take Over Bid)によって行われます。TOBでは、買収対象企業の株式の「買付け期間・買い取り株数・価格」をあらかじめ公告したうえで、不特定多数の株主からの株式買い取りを実施します。このとき、株式の市場価格よりも30~50%割増で買い取り価格を設定することが一般的です。
敵対的買収は、経営陣にとって望ましくない買収であっても、株主にとって必ずしも不利益につながるわけではありません。たとえば、株主が企業の経営方針に不満を持っている場合、買収防衛策は決議されず、敵対的買収が成立する可能性があります。ただし、日本国内において、敵対的買収に成功した事例はほとんどなく、ほとんどが失敗に終わっているのが実情です。かつて、ライブドアや村上ファンドが敵対的買収が世間を賑わせ、その頃から有名な手法となりましたが、このように敵対的買収が多発したのは2000年代半ば頃で、それ以降は敵対的買収の事例は激減しているのが実情です。
種類 | 説明 |
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友好的買収 | 買収対象企業の経営陣や株主との事前合意あり |
敵対的買収 | 買収対象企業の経営陣や株主との事前合意なし |
買収防衛策の導入状況
レコフデータの調査によると、前述した経済産業省・法務省共同の買収防衛策の指針が2005年に発表されたあと、日本では買収防衛策を導入する上場企業が急増。2008(平成20)年末時点で569社が買収防衛策を導入していました(過去最高値)。
しかし、その後、徐々に買収防衛策を中止する企業が増え始め、2021(令和3)年10月時点での買収防衛策導入企業数は275社と、ほぼ半減しています。
この背景にあるのは、買収防衛策が単に経営陣の保身目的になっていないか、という株主の批判です。特に外国人投資家にこの傾向が強く、海外の機関投資家の比重が高い日本企業では、多くが買収防衛策を中止しています。
時期 | 導入企業数 |
---|---|
2008年末 | 569社 |
2021年10月 | 275社 |
まとめ
買収防衛策は、企業が敵対的な買収をされないために導入する対策のことです。敵対的買収は、相手の企業の取締役会との合意を得ることなく、会社の買収を行うことで、TOBを用いて行われる方法が一般的です。
買収防衛策には、買収のターゲットにならないようにする予防策と、ターゲットにされたときの対抗策の2つがあります。
買収防衛策は、経営陣の保身のためではなく、企業価値や株主の利益を守るためのものでなければなりません。
買収防衛策は、企業価値向上に資するものでなければなりません。
2. 買収防衛策の種類
予防策
敵対的買収の予防策としては以下のものがあります。・ゴールデンパラシュート・ティンパラシュート・マネジメント・バイアウト・プットオプション・チェンジオブコントロール条項・黄金株・絶対的多数条項・全部取得条項付株式・事前警告型防衛策
敵対的買収が成功すると現在の取締役は解任されることが多いですが、ゴールデンパラシュートはその点に着目し、あらかじめ取締役の退職金を高額に設定しています。これにより、買収が成立した場合に多額の退職金を支払うことで、財務内容が将来的に悪化することを予想し買収を諦める、といった予防効果が見込まれます。※通常、ゴールデンパラシュートに使われる退職金の額は取締役の給料の3倍程度であると言われています。この施策は、キャッシュフローに大きな悪影響が出てくる場合があります。アメリカではかなり有効な防衛手段とされていましたが、日本ではあまり馴染みがない施策です。
ゴールデンパラシュートと同様に、従業員の退職金設定を高額にしておく買収防衛策です。取締役のゴールデン(Golden=黄金)に対し、ティン(Tin=ブリキ、スズ)が当てはめられています。ただし、敵対的買収で取締役が退職させられるのはほぼ確定的ですが、従業員の人員整理は必ずしも行われるとは限らないため、効果が発揮されないケースも多いことに注意が必要です。
経営陣が自社の株式を全て買い取って上場廃止にしてしまうのが、マネジメント・バイアウトです。英語表記ではManagement Buyoutであるため「MBO」という略称もあります。経営陣個人が買収資金全てを用意するのは無理があるため、金融機関やファンドの協力を得るケースがほとんどです。
種類 | 説明 |
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ゴールデンパラシュート | 取締役の退職金を高額に設定 |
ティンパラシュート | 従業員の退職金を高額に設定 |
マネジメント・バイアウト | 経営陣が自社の株式を買い取って上場廃止 |
プットオプション | 株主・債権者に特定条件下で株式買取・債務弁済請求権を付与 |
チェンジオブコントロール条項 | 経営権が移動した場合、取引先との契約内容に制限がかかったり、契約が解除されたりする条項 |
黄金株 | 株主総会での決議において拒否権を発動できる特別な株式 |
絶対的多数条項 | 株主総会の決議承認に関し、通常よりも議決要件を厳しく設定 |
全部取得条項付種類株式 | 会社が強制的に買い上げることが可能な株式 |
事前警告型防衛策 | 事前に具体的な買収防衛策の内容を公表 |
対抗策
敵対的買収が発表されてから行われる対抗策としては以下のものがあります。・ホワイトナイト・クラウンジュエル・ポイズンピル・マネジメント・バイアウト・パックマンディフェンス・ジューイッシュ・デンティスト・資産ロックアップ・増配
敵対的買収のターゲットになった時に、第三者割当増資などを利用し、敵対的買収に必要な持ち株比率にならないよう防衛する方法です。第三者割当増資とは、特定の第三者に対して、株式を発行し購入してもらう方法のことです。一見すると、ポイズンピルと似ていますが、ポイズンピルは予防策であり、ホワイトナイトは買収を仕掛けられてから行う対抗策という点で違いがあります。またホワイトナイトの場合は特定の会社に依頼するという点でも違いがあります。この方法で敵対的買収を仕掛ける企業の、株式所有割合が一定以下になれば、敵対的買収ができなくなります。ただし、第三者割当増資で株式を購入してもらった会社の持ち株比率も高まるため、その会社によって自社の経営に悪影響を与えうる可能性もあります。そのためホワイトナイトを依頼する対象は慎重に選ぶことが重要です。
買収側が求めている事業や資産を別の第三者に売ってしまうことです。買収先の企業の目的が特定の事業や資産にある場合、大きな力を発揮しますが、その後の経営に重大な影響を与える可能性もあります。また株価が下がることも避けられず、デメリットやリスクが大きいため、滅多に実施されることはありません。
既存の株主にあらかじめ新株予約権を発行しておくことで買収を食い止める方法です。企業が敵対的買収者に自社の株式の一定数を奪われてしまった場合、あらかじめ定められたポイズンピル(毒薬条項)に基づいて新株が発行されます。そして、新株予約権がすでに発行されている既存株主が、市場価格(時価)よりも安い価格で新株を取得することになります。そうすると、買収者の持つ株式数の全体に占める割合が低くなり、支配権が弱まり買収に歯止めがかけられるというものです。ポイズンピルは、買収者に対して文字通り「毒薬」を盛る効果があります。しかし、その一方で、新株発行により株価の値下がりは避けられず、一般株主にマイナスの影響を与えことになります。
種類 | 説明 |
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ホワイトナイト | 友好的な第三者に買収してもらう |
クラウンジュエル | 自社の重要な資産や高利益の事業などを第三者に売却 |
ポイズンピル | 既存株主に新株予約権を発行し、買収者の株式取得割合を低下させる |
パックマンディフェンス | 買収を仕掛けた企業に対して逆に買収をしかける |
ジューイッシュ・デンティスト | 自社のネガティブな情報をマスコミに流して企業価値を下げる |
資産ロックアップ | 敵対的買収後、しばらくの間は資産売却できないことを定款に定める |
増配 | 株主に高い配当金を支払うことで、敵対的買収を阻止する |
労働組合による買収防衛 | 労働組合の力で買収防衛を図る |
買収防衛策の注意点
買収防衛策は、株主や従業員に不利益を与えることも多く、導入する場合にはあらかじめ準備しておくべきことがあります。具体的には以下の点です。・株主の合意を得ること・買収防衛策後のことを考えておく
買収防衛策を行う場合には、株主の合意を得ることが必要です。買収防衛策は定款変更を伴うものも多く、株主の同意なしに買収防衛策を取れない方法も少なくありません。株主の合意が必要ないクラウンジュエルなどの施作もありますが、合意なしに行うと、株主から反発される可能性が非常に高いため、そうした場合でも事前の合意はしておくべきでしょう。
買収防衛策を取り入れる場合は、買収防衛できた後のことを考えておきましょう。買収防衛策は株主に不利益なものが多いため、株主が減ってしまい、買収を回避できても、その後の経営が困難になる可能性もあります。場合によっては無理に買収回避しようとするより、買収された方が良いなんてケースも十分に考えられます。買収対策を行う場合は、買収対策できた後もきちんと経営ができる状態になっているかどうか、よく検討しましょう。
注意点 | 内容 |
---|---|
株主の合意 | 買収防衛策の導入にあたっては、株主の同意を得ることが原則 |
買収防衛策後のことを考えておく | 買収防衛策が成功した後も、きちんと経営ができる状態になっているかどうか、よく検討する |
まとめ
買収防衛策は、敵対的買収を仕掛けられた企業が、自社の経営権を守るために用いる様々な対策のことです。
買収防衛策には、敵対的買収を事前に防ぐための予防策と、敵対的買収を仕掛けられてから行う対抗策があります。
買収防衛策は、企業価値や株主の利益を守るためのものでなければなりません。
買収防衛策は、企業価値向上に資するものでなければなりません。
3. ホワイトナイトとは
ホワイトナイトとは
ホワイトナイトとは敵対的買収のターゲットになった時に、第三者割当増資などを利用し、敵対的買収に必要な持ち株比率にならないよう防衛する方法です。第三者割当増資とは、特定の第三者に対して、株式を発行し購入してもらう方法のことです。一見すると、ポイズンピルと似ていますが、ポイズンピルは予防策であり、ホワイトナイトは買収を仕掛けられてから行う対抗策という点で違いがあります。またホワイトナイトの場合は特定の会社に依頼するという点でも違いがあります。この方法で敵対的買収を仕掛ける企業の、株式所有割合が一定以下になれば、敵対的買収ができなくなります。ただし、第三者割当増資で株式を購入してもらった会社の持ち株比率も高まるため、その会社によって自社の経営に悪影響を与えうる可能性もあります。そのためホワイトナイトを依頼する対象は慎重に選ぶことが重要です。
ホワイトナイトとは、敵対的買収における被買収企業が友好的な第三者に依頼し、自社を買収もしくは合併してもらう買収防衛策です。ホワイトナイトとなる友好的な第三者にとっては、予定外のM&Aとなりますので、通常のM&Aよりも有利な条件が提示されます。一方で被買収企業の経営陣についても「買収後も経営陣として残ることができる」など有利な条件で買収してもらうことが一般的です。
ホワイトナイトは、友好的な第三者が被買収企業の株式を取得し、会社の支配権を確立することによって達成されます。ただし、株式の取得プロセスには主に以下の3種類があります。・カウンターTOB・第三者割当増資・新株予約権付与
方法 | 説明 |
---|---|
カウンターTOB | 敵対的買収企業のTOBに対して、ホワイトナイトも同様にTOBで対抗 |
第三者割当増資 | ホワイトナイトに株式引受の権利を付与して、株式保有比率を引き上げる |
新株予約権付与 | ホワイトナイトに新株予約権を付与し、行使させることで、株式保有比率を引き上げる |
ホワイトナイトのメリット
まず、最大のメリットとして、敵対的な買収を阻止できる点にあります。敵対的な企業に買収されるよりも、ホワイトナイトに買収される方が、自社の経営方針や企業文化、さらには従業員の生活を守ることに繋がるでしょう。このように、ホワイトナイトの介入は敵対的買収のネガティブな部分をさけることができます。
ホワイトナイトとして適格かつ友好的な第三者が登場すれば、敵対的買収を阻止できる可能性があります。
ホワイトナイトのデメリット
ホワイトナイトが敵対的買収を阻止した場合には、ホワイトナイトに会社を買収されることになります。友好的買収ですので、役員が解任される、従業員が人員整理で解雇されるといった結果は回避できるかもしれませんが、買収されるという事実に変わりはありません。また、ホワイトナイトとなる第三者にとっては想定外のM&Aとなります。そのため通常のM&Aよりも、買い手にとって有利な条件で買収となるケースも多いです。ホワイトナイトによる買収後に「会社を買い叩かれた」と感じることになるかもしれません。また、経営者による自由な経営を志向していた企業にとっては、買収によって支配権を手放すことになりますので、デメリットに感じるかもしれません。
敵対的買収は、被買収企業の同意を得ないで市場から株式を買い集めることで実施されます。したがって敵対的買収を仕掛けられた時点では、他の企業から見て、被買収企業は「買収されたくないと考えている」とみなされています。しかし、ホワイトナイトに頼るということは、明確に身売りの意志を表明することです。「買収そのものを否定しているわけではない」と考えた他の企業が新たな買収を相談してくる可能性があります。買収に合意できなければ、敵対的買収に発展するおそれがあるでしょう。その場合、ホワイトナイトはさらに多くの競合と株式の買い集めを巡って、競争する必要に迫られます。
デメリット | 内容 |
---|---|
買収されること | ホワイトナイトに会社を買収されること |
買収条件 | 通常のM&Aよりも、買い手にとって有利な条件で買収となるケースが多い |
新たな買収者 | ホワイトナイトに頼ることで、他の企業から新たな買収の相談が来る可能性がある |
まとめ
ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられた企業が、別の友好的な買収者を見つけて買収あるいは合併をしてもらい、敵対的買収を阻止する防衛策のことです。
ホワイトナイトを用いることで、結果的に他社の傘下に入る点などには気をつける必要があります。
ホワイトナイトは、敵対的買収を阻止する有効な手段ですが、リスクや問題点があるため、活用に際しては専門家に相談しましょう。
4. ゴールデンパラシュート制度とは
ゴールデンパラシュートとは
敵対的買収が成立した場合、従来の経営陣は退職させられて新たな経営陣が選ばれます。そこで、事前に取締役との間で大きく割り増しした退職金契約を結んでおくのが、ゴールデンパラシュートです。取締役全員の割り増しした退職金は相当な金額となるため、そのことで敵対的買収を思いとどまらせる効果を狙っています。※通常、ゴールデンパラシュートに使われる退職金の額は取締役の給料の3倍程度であると言われています。この施策は、キャッシュフローに大きな悪影響が出てくる場合があります。アメリカではかなり有効な防衛手段とされていましたが、日本ではあまり馴染みがない施策です。
ゴールデンパラシュートは、敵対的買収を防止する方法(買収防衛策)の1つです。自社が敵対的買収に成功されてしまうと、多くのケースで経営陣の解任が求められます。そこで「事前に経営陣や役員の退職金を巨額に設定しておき敵対的買収に対抗する」施策のことをゴールデンパラシュートと呼んでいます。
ゴールデンパラシュートの名称は、「敵対的買収によって乗っ取られた企業から脱出すべくお金(ゴールド)をパラシュートに見立てて活用する」という表現が由来となっています。ちなみに経営陣や役員ではなく、従業員の退職金を高額にする買収防衛策はティンパラシュート(ブリキの落下傘)といいます。
ゴールデンパラシュートのメリット
ゴールデンパラシュートを活用すれば、敵対的買収に伴う社風・歴史の改変を防げます。敵対的買収を許してしまえば、これまで築き上げてきた社風や歴史を変更されてしまうおそれがあります。場合によっては、従業員が働きやすいと感じていた会社が働きにくい会社に様変わりしてしまうケースもあります。給与や勤務地などの待遇面も大きく変更されることもあり、従業員は厳しい状況に立たされてしまいます。さらには「参入予定のなかった市場への新規参入が急遽開始される」というように、これまでの経営方針の急激な転換もあり得ます。敵対的買収を実施されれば、従業員に深刻な影響を与える可能性は高くなります。従業員の保護を考えるならば、ゴールデンパラシュートの設定を検討すると良いです。
ゴールデンパラシュートを活用すれば、敵対的買収に伴う役員の交代を防ぐことが可能です。敵対的買収を許してしまえば、会社が統合されることとなります。会社が統合すると、両社経営陣の間で役職が重複するケースがあります。そこで役職の重複を解消するために、これまで自社の役員として経営に携わってきた人材が別の役職へと移されることがあるのです。最悪の場合には、役員が退職に追い込まれてしまう可能性もゼロではありません。自社の役員を守りたい場合には、ゴールデンパラシュートの設定を検討するのも良いです。
ゴールデンパラシュートを活用すれば、株主に余計なリスクを与えずに済みます。基本的に敵対的買収を実施された会社の株主は、統合会社の株式を保有することになります。つまり自社の株主が保有する株式が変わるため、場合によっては株式の売却金額が低下する可能性もあり得るということになります。このように株主にもリスクを与える危険性を孕んでいます。ゴールデンパラシュートは、株主保護の観点からも有効策となります。
メリット | 内容 |
---|---|
社風・歴史の改変防止 | 敵対的買収による社風・歴史の改変を防ぐ |
役員の交代防止 | 敵対的買収による役員の交代を防ぐ |
株主へのリスク軽減 | 株主に余計なリスクを与えずに済む |
ゴールデンパラシュートのデメリット
ゴールデンパラシュートの設定は、株主からすれば経営陣による自己保身策と捉えられやすいです。つまり、ゴールデンパラシュートの設定にあたって株主から承認を得にくいのです。原則として、株主の承認を得なければ、ゴールデンパラシュートを設定できません。ところが株主としては、「現経営陣による経営体制の維持」と「敵対的買収による経営体制の刷新」のどちらが自分たちに利益があるのか的確に判断することは困難です。したがってゴールデンパラシュートの設定を株主に納得させるには、敵対的買収を仕掛ける企業よりも現経営陣の方が優れていることをわかりやすく示す必要があります。
もしもゴールデンパラシュートの効果が充分に働かずに敵対的買収が成立してしまった場合、経営陣の信用度が低下する可能性があります。結果的に敵対的買収を許してしまっているため、経営陣のみが得できるようにゴールデンパラシュートを設定したのだと誤解されかねません。会社としても経営者個人としても信頼度が低下してしまい、将来的に再び会社を設立しようとしても信用を集められず難しい状況に置かれるケースが多いです。
ゴールデンパラシュートを実行すれば、利益相反の義務違反に問われるリスクがあります。利益相反とは、本来他人の利益を図るべき立場に置かれる企業・個人が、他方にとって不利益になる行為を実施することです。つまり、自分だけ得しようと考えて実行する行為をさします。前述のとおりゴールデンパラシュートは、経営者のみが利益を得ようと考えて実行される行為だと、株主から誤解されることが多いです。そのため経営陣は、常に利益相反に違反しないかを考えて行動しなければなりません。
デメリット | 内容 |
---|---|
設定の困難さ | 株主の同意を得ることが難しい |
信用度失墜 | 敵対的買収が成立した場合、経営陣の信用度が低下する可能性がある |
利益相反 | 利益相反の義務違反に問われるリスクがある |
まとめ
ゴールデンパラシュートとは、敵対的買収を仕掛けられた企業が、経営陣の退職金を高額に設定することで、買収を諦めさせる買収防衛策です。
敵対的買収が成立した場合、経営陣は多額の退職金を受け取ることができるため、買収されたときの保険としての機能も持ち合わせています。
ゴールデンパラシュートは、敵対的買収を阻止する有効な手段ですが、設定が困難であったり、失敗すると信用度が失墜したりするなど、デメリットも存在します。
そのため、ゴールデンパラシュートを導入する際には、そのメリットとデメリットを十分に検討し、専門家に相談することが重要です。
5. ポイズンピルとは
ポイズンピルとは
敵対的買収者が現れ一定の株式数を取得した場合を条件に、既存株主が大量に安価で新株を購入できる権利を設定しておく買収防衛策です(この設定をポイズンピル=毒薬条項という)。敵対的買収者の取得した株式割合を一挙に低下できるので、経営権を取得できるような株式数を持たせない効果があります。ただし、新株の大量発行は、1株あたりの株式価値低下を招く点がデメリットです。
ポイズンピル(ライツプラン)は、買収者が一定割合の株式を買い占めた場合(典型的には連結財務諸表において持分法の対象となる約20%)、買収者以外の株主に自動的に新株予約権が発行され、買収者の株式取得割合が低下する仕組みです。
ポイズンピルの事例
日本で最も有名なポイズンピルの事例といえば、2005年にニッポン放送が発動したものではないでしょうか。当時、ライブドアはニッポン放送に敵対的買収をしかけ、ニッポン放送の株式を大量に買っていました。そんな中、ニッポン放送は大量の新株予約権を実質親会社のフジテレビに発行しました。この際、ニッポン放送は株式の希薄化を懸念した個人株主から新株予約権発行の差し止めを請求され、その請求は認められることになりました。結局、この敵対的買収は成功しませんでしたが、とても有名なポイズンピルの事例として知られています。
アメリカのヘッジファンドであるスティール・パートナーズは、2007年に日本の調味料メーカーであるブルドッグソースに敵対的買収を仕掛けました。その際、ブルドッグソースは以下のような特徴を持つポイズンピルを発動しています。・新株予約権を既存株主に発行・新株予約権の行使価格を市場価格よりも大幅に安く設定・新株予約権の行使期間を長く設定
企業 | 敵対的買収者 | 結果 |
---|---|---|
ニッポン放送 | ライブドア | 失敗 |
ブルドックソース | スティール・パートナーズ | 失敗 |
ポイズンピルの注意点
ポイズンピルは、買収者に対して文字通り「毒薬」を盛る効果があります。しかし、その一方で、新株発行により株価の値下がりは避けられず、一般株主にマイナスの影響を与えことになります。
まとめ
ポイズンピルとは、敵対的買収を仕掛けられた企業が、既存株主に新株予約権を発行することで、買収を阻止する買収防衛策です。
ポイズンピルは、買収者の株式取得割合を低下させる効果がありますが、株価の値下がりなどのデメリットも存在します。
ポイズンピルは、買収防衛策の中でも、最も効果的な手段の一つですが、その一方で、株主との関係悪化や企業価値の低下などのリスクも伴います。
そのため、ポイズンピルを導入する際には、そのメリットとデメリットを十分に検討し、専門家に相談することが重要です。
6. パシフィックシティベロシティとは
パシフィックシティベロシティとは
パシフィックシティベロシティとは、敵対的買収を仕掛けられた企業が、自社の価値を下げることで、買収を諦めさせる買収防衛策です。
具体的には、自社の重要な資産や高利益の事業などを第三者に売却したり、多額の負債を引き受けたりして自社の価値を下げます。
こうなると、敵対的買収が成功しても無意味なので、買収を断念せざるを得ないでしょう。
パシフィックシティベロシティの事例
2005年2月~4月のライブドアvsフジサンケイグループのニッポン放送株の争奪戦です。ライブドアがニッポン放送株を過半数取得する前に、フジテレビジョン株などをフジサンケイグループの企業に譲渡することが検討されたことが、まさにこれにあたります。
企業 | 敵対的買収者 | 結果 |
---|---|---|
ニッポン放送 | ライブドア | 失敗 |
パシフィックシティベロシティの注意点
ただし、特に資産や事業を売却した場合、その後の業績が見通せなくなります。株主にとっては大問題であり、これを実施した経営陣は提訴されかねません。
まとめ
パシフィックシティベロシティとは、敵対的買収を仕掛けられた企業が、自社の価値を下げることで、買収を諦めさせる買収防衛策です。
パシフィックシティベロシティは、敵対的買収を阻止する効果が高いですが、その一方で、企業価値の低下や株主との関係悪化などのリスクも伴います。
そのため、パシフィックシティベロシティを導入する際には、そのメリットとデメリットを十分に検討し、専門家に相談することが重要です。
参考文献
・買収防衛策とは?敵対的買収から会社を守る対策と事例、導入 …
・買収防衛策とは?買収防衛策の種類や具体例・事例 | fundbook …
・買収防衛策とは?必要性や種類、具体的な手法を解説|M&A …
・買収防衛策とは?種類やデメリットから具体的な事例・廃止 …
・買収防衛策とは?その意味、具体的方法、事例などをわかり …
・ホワイトナイトとは?防衛策やメリット・デメリットを解説 – Ps …
・ホワイトナイトとは?事例やポイントについてもあわせて解説 …
・ホワイトナイトとは? 具体的な3つの施策や成功・失敗事例を …
・ゴールデン・パラシュートとは? 意味やメリット、実際の事例 …
・ゴールデンパラシュート | M&A・事業承継の理解を深める
・買収防衛策って何? 敵対的tobを仕掛けられたときの対抗策とは …
・ポイズンピル(毒薬条項)とは|会社・経営用語集|iFinance
・買収防衛策「ポイズンピル」とは ビジネスパーソンの必須知識 …
・ポイズンピルとは 買収者の議決権比率引き下げ – 日本経済新聞
・PDF 買収防衛策の近時動向( 2024 年 1月時点 版 – 大和総研