物価連動債とは?経済用語について説明

物価連動債の概要
項目 内容
定義 物価の変動に連動して元本と利子が変動する債券
種類 日本国債、カナダ国債、英国国債、米国国債など
メリット インフレリスクのヘッジ、元本保証、金利上昇リスクへの耐性
リスク デフレリスク、発行価格と償還価格の差、金利上昇リスク
運用方法 投資信託(物価連動債ファンド)への投資
投資効果 インフレヘッジ、ポートフォリオの分散効果、長期投資への適性

1. 物価連動債とは

要約

物価連動債とは何か?

物価連動債とは、国が発行する債券(国債)の一種で、元金額や利払い額が物価の動きに連動して増減する国債です。物価連動国債は投資信託の投資対象の一つです。物価連動債は、物価が上昇すれば、その上昇率に応じて債券の元金額が増加し、元金に表面利率を乗じて算出される利払い額も増加します。反対に、物価が下落すれば、その下落率に応じて元金額も利払い額も減少します。日本の物価連動国債では、物価の判断には全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)が使われます。

なお、平成25年度以降に発行されている日本の物価連動国債には、償還時の連動係数が1を下回る場合、額面金額にて償還される元本保証(フロア)が設定されています。したがって、償還時の物価水準が発行時の物価水準よりも低下した場合でも、額面金額で償還されます。利払いは年2回で、利子の額は各利払い時の想定元金額に表面利率を乗じて算出されます。表面利率は発行時に固定されており、全利払いを通じて同一です。

日本の物価連動国債の発行額は、平成25年以降、年に0.6兆円から2.0兆円の間で推移しています。

物価連動債の仕組み
項目 内容
元本 物価変動に連動して増減
利子 元本に表面利率を乗じて算出
発行 国が発行
償還 額面金額で償還(フロアあり)

物価連動債の歴史

2015年までは、物価連動国債の購入対象者は政府及び一部金融機関に限定されていたため、個人投資家は購入することができませんでした。その後、2017年から、個人向けに額面金額10万円の物価連動国債が発行される予定でしたが、財務省は、マイナス金利といった市場環境等を勘案し、発売開始を延期しており、2019年5月現在、個人が物価連動国債を金融機関の窓口で購入することはできません。

物価連動国債は、日本だけでなく、海外でも、inflation linked bond(インフレリンク債)などという名称で発行されています。カナダではReal Return Bond (RRB)、英国ではInflation-linked Gilt(ILG)、米国ではinflation-protected security(TIPS)と呼ばれています。いずれも、インフレに連動して元本・利払いが増減し、ほとんど場合、インフレを測る指標として消費者物価指数が採用されています。

物価連動債の発行状況
期間 発行額(兆円)
平成25年度以降 0.6~2.0

物価連動債のメリットとデメリット

インフレリスクをヘッジできる投資商品として注目される物価連動債ですが、一方で、物価が下落した場合には、その下落率に応じて元金額や利払い額が減少するというデメリットもあります。

物価連動債の購入状況
時期 購入対象者
2015年以前 政府・一部金融機関
2017年以降 個人(延期)

まとめ

物価連動債は、物価の変動に連動して元本と利子が変動する債券です。インフレ時には元本が増加し、利子も増えるため、インフレリスクをヘッジする効果が期待できます。しかし、デフレ時には元本が減少し、利子も減ってしまうため、注意が必要です。

日本では、2004年から物価連動国債が発行されていますが、個人投資家が直接購入できるようになったのは2015年からで、現在でも金融機関の窓口で購入できるのは限られています。

物価連動国債は、インフレリスクをヘッジする手段として有効ですが、デフレリスクや金利上昇リスクなど、注意すべき点もいくつかあります。

投資する際は、これらのメリットとデメリットを理解した上で、自分の投資方針に合った方法で投資を行うようにしましょう。

2. 物価連動債のメリット

要約

インフレリスクのヘッジ

物価連動債の最大のメリットは、インフレリスクをヘッジできることです。物価が上昇すると、債券の元本もそれに応じて増加するため、実質的な価値が目減りすることを防ぐことができます。

例えば、物価が10%上昇した場合、通常の債券では元本は10%減ってしまうのに対し、物価連動債では元本が10%増加します。これにより、インフレによる資産価値の目減りを防ぐことができます。

インフレリスクヘッジの例
物価変動 通常の債券 物価連動債
10%上昇 元本10%減少 元本10%増加

元本保証(フロア)

日本の物価連動国債には、償還時に元本が保証される「フロア」という仕組みがあります。これは、物価が下落した場合でも、元本が額面金額を下回ることはなく、元本が保証されることを意味します。

例えば、100万円の物価連動国債を105万円で購入した場合、償還時に物価が下落し、元本が95万円になったとしても、フロアによって100万円で償還されます。

フロアによる元本保証
購入価格 償還時の元本 償還金額
105万円 95万円 100万円

金利上昇リスクへの耐性

物価連動債は、物価上昇を伴う金利上昇に耐性があります。これは、物価連動債の元本が物価に連動して変動するため、金利上昇による債券価格の下落が相殺されるからです。

例えば、金利が上昇すると、通常の債券は価格が下落しますが、物価連動債は、物価上昇によって元本が増加するため、価格が下落する幅が小さくなります。

金利上昇リスクへの耐性
金利変動 通常の債券 物価連動債
上昇 価格下落 価格下落幅が小さい

まとめ

物価連動債は、インフレリスクのヘッジ、元本保証、金利上昇リスクへの耐性など、多くのメリットがあります。

特に、インフレが懸念される状況では、物価連動債は有効な投資手段となりえます。

3. 物価連動債のリスク

要約

デフレリスク

物価連動債は、インフレ時にはメリットが大きいですが、デフレ時にはデメリットがあります。物価が下落すると、債券の元本もそれに応じて減少するため、実質的な価値が目減りしてしまいます。

例えば、物価が10%下落した場合、通常の債券では元本は10%減ってしまうのに対し、物価連動債では元本が10%減少します。これにより、デフレによる資産価値の目減りを防ぐことはできません。

デフレリスクの例
物価変動 通常の債券 物価連動債
10%下落 元本10%減少 元本10%減少

発行価格と償還価格の差

物価連動債は、発行価格が額面金額よりも高い場合があり、償還時に額面金額で償還されても、発行価格を下回る可能性があります。

例えば、100万円の物価連動国債を105万円で購入した場合、償還時に物価が下落し、元本が95万円になったとしても、フロアによって100万円で償還されます。しかし、この場合でも、投資額は105万円なので、5万円の損失が発生してしまいます。

発行価格と償還価格の差
購入価格 償還時の元本 償還金額 損失
105万円 95万円 100万円 5万円

金利上昇リスク

物価連動債は、物価上昇を伴わない金利上昇時には不利に働きます。これは、金利が上昇すると、債券の価格は下落するためです。

例えば、金利が上昇すると、通常の債券は価格が下落しますが、物価連動債は、物価上昇を伴わない金利上昇時には、価格が下落する幅が大きくなります。

金利上昇リスク
金利変動 通常の債券 物価連動債
上昇 価格下落 価格下落幅が大きい

まとめ

物価連動債は、インフレリスクをヘッジできる一方で、デフレリスクや金利上昇リスクなど、注意すべき点もいくつかあります。

特に、デフレが懸念される状況では、物価連動債は投資に適さない可能性があります。

4. 物価連動債の運用方法

要約

物価連動債の購入方法

個人投資家は、2019年5月現在、物価連動国債を購入することはできませんが、物価連動国債を主な投資対象とする投資信託(一般に物価連動国債ファンドと呼びます)への投資を通じて、物価連動国債に投資することが可能です。

物価連動国債ファンドには、日本の物価連動国債に的を絞って投資するタイプもあれば、世界の物価連動国債に分散投資するタイプのものもあります。

物価連動債ファンドの選び方

物価連動債ファンドを購入する際、注目すべきポイントが2つあります。

一つは平均残存年数です。債券は残存年数(償還までの期間)が長ければ長いほど、金利変動の影響を大きく受けます。債券は金利が低下する局面で価格が上昇しますので、今後の金利上昇が予想される局面では、平均残存年数が短い投資信託を選定するとよいでしょう。

もう一つの注目すべきポイントは、保有期間中の手数料である信託報酬です。信託報酬は保有期間に応じて手数料として基準価額から差し引かれますので、できるだけ信託報酬が低いファンドを選ぶ方が良好なパフォーマンスにつながりやすくなります。短い期間での差はわずかですが、長期間投資をすることで大きな差が生まれるでしょう。

物価連動債ファンドの選び方
項目 内容
平均残存年数 短い方が金利上昇リスクに強い
信託報酬 低い方がパフォーマンスが良い

物価連動債ファンドの例

2022年1月現在、金融機関で買える物価連動国債の投資信託は以下の3本です(確定拠出年金専用ファンドを除く)。

みずほフィナンシャルグループのアセットマネジメントONEが運用する物価連動債のファンドです。『未来予想』は今回紹介する3つのファンドの中で、もっとも平均残存年数が短いという特徴があります。金利上昇が予想される局面では選択肢としてもよいでしょう。

三菱UFJフィナンシャルグループの三菱UFJ国際投信が運用する『eMAXIS 国内物価連動国債インデックス』は、今回紹介する3つのファンドの中で最も信託報酬が低いファンドです。金利情勢について中立な見方をしている場合や、長期間保有したい場合におすすめのファンドだといえるでしょう。

大和証券系の大和アセットマネジメントが運用している『日本物価連動国債ファンド』は、平均残存年数が長いファンドなので、金利低下が予想される場面では選択肢のひとつとして検討してみてもよいでしょう。

物価連動債ファンドの例
ファンド名 運用会社 純資産総額(億円) 設定日 過去1年の騰落率 平均残存年数 信託報酬(税込み)
未来予想 アセットマネジメントOne 181 2004年6月1日 3.3% 4.7年 年0.66%
eMAXIS 国内物価連動国債インデックス 三菱UFJ国際投信 18.7 2014年11月6日 3.4% 4.9年 年0.44%
日本物価連動国債ファンド 大和アセットマネジメント 59 2013年9月5日 3.8% 7.0年 年0.649%

まとめ

物価連動債は、直接購入できない場合でも、投資信託を通じて投資することができます。

投資信託を選ぶ際は、平均残存年数や信託報酬などを考慮し、自分の投資方針に合ったファンドを選びましょう。

5. 物価連動債の種類

要約

日本の物価連動国債

日本の物価連動国債は、2004年から発行されています。

2015年以降は、個人投資家も購入できるようになりました。

日本の物価連動国債には、償還時に元本が保証される「フロア」という仕組みがあります。

日本の物価連動国債
特徴 内容
発行主体 日本国政府
通貨 日本円
元本保証 フロアあり
購入単位 10万円
購入方法 金融機関の窓口(個人向け販売は延期)

海外の物価連動国債

海外でも、物価連動国債は発行されています。

カナダではReal Return Bond (RRB)、英国ではInflation-linked Gilt(ILG)、米国ではinflation-protected security(TIPS)と呼ばれています。

海外の物価連動国債
名称
カナダ Real Return Bond (RRB)
英国 Inflation-linked Gilt(ILG)
米国 inflation-protected security(TIPS)

物価連動債ファンド

物価連動債ファンドは、物価連動国債を投資対象とする投資信託です。

日本の物価連動国債に投資するファンド、世界の物価連動国債に分散投資するファンドなどがあります。

まとめ

物価連動債は、国や地域によって様々な種類があります。

投資する際は、それぞれの物価連動債の特徴を理解した上で、自分の投資方針に合ったものを選びましょう。

6. 物価連動債の投資効果

要約

インフレヘッジとしての効果

物価連動債は、インフレリスクをヘッジする効果が期待できます。

物価が上昇すると、債券の元本もそれに応じて増加するため、実質的な価値が目減りすることを防ぐことができます。

ポートフォリオの分散効果

物価連動債は、株式や通常の社債とは異なる値動きをしやすいため、投資先を分散して資産全体の値動きを抑えたいと考えている方には有効な手段です。

物価連動債は、インフレ時には株式よりも安定した値動きをする傾向があります。

長期投資における効果

物価連動債は、長期投資にも適しています。

物価連動債は、長期的に見て、インフレによる資産価値の目減りを防ぐ効果が期待できます。

まとめ

物価連動債は、インフレリスクをヘッジし、ポートフォリオの分散効果を高め、長期投資にも適した投資商品です。

ただし、デフレリスクや金利上昇リスクなど、注意すべき点もいくつかあります。

投資する際は、これらのメリットとデメリットを理解した上で、自分の投資方針に合った方法で投資を行うようにしましょう。

参考文献

PDF 物価連動国債入門ー基礎編ー – 財務省

インフレに強い債券「物価連動債」の特徴と仕組みを解説 …

物価連動債とは | PIMCO – Pacific Investment Management …

インフレ連動債 | 初心者でもわかりやすい金融用語集 | マネ …

インフレ防衛で注目される「物価連動国債」を改めて解説する …

物価連動国債とは|金融商品ガイド|iFinance

物価連動債 | 金融・証券用語解説集 | 大和証券

物価連動国債/インフレ連動国債│SMBC日興証券

物価連動国債|証券用語解説集|野村證券

投資信託用語集「物価連動国債」 | 東京海上アセットマネジメント

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