カルパチア山脈とヨーロッパ地域の古代及び原生ブナ林とは？世界遺産についての解説

カルパチア山脈とヨーロッパ地域の古代及び原生ブナ林の構成資産
国名	構成資産数
ウクライナ	15
イタリア	13
ルーマニア	12
ブルガリア	9
スペイン	6
スロバキア	5
ドイツ	5
オーストリア	5
ベルギー	5
ポーランド	4
クロアチア	3
フランス	3
アルバニア	2
スロベニア	2
スイス	2
ボスニア・ヘルツェゴビナ	1
チェコ	1
北マケドニア	1

1. カルパチア山脈とブナ林
2. ヨーロッパ地域の原生ブナ林の生態系
3. カルパチア山脈の歴史的背景
4. ブナ林の生物多様性の保全
5. 世界遺産登録の意義
6. 今後の課題と展望

1. カルパチア山脈とブナ林

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林の概要

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、ヨーロッパ18か国にまたがるユネスコの世界遺産（自然遺産）登録物件です。登録名は単なる「ブナ林」ですが、日本のブナ林とは異なり、ヨーロッパブナの森林を対象としています。この一連のブナ林は、最終氷期以降のヨーロッパにおけるヨーロッパブナの生息域の拡大に伴う陸域生態系の変遷と再定着、そしてヨーロッパブナの遺伝的適応を示す良い例であり、北半球に広く分布しているブナ属の歴史と進化を理解するために不可欠なものです。

当初、東カルパティア山脈に残るヨーロッパブナの原生林が、ヨーロッパに残る同種の森林の中でも樹齢、種類の多様さ、木々の大きさ、範囲の広さなどの点で突出した価値を持つとして、世界遺産に登録されました。そのときはスロバキアとウクライナが共有する「カルパティア山脈のブナ原生林」でしたが、2011年にはドイツ中部・北西部にある15箇所のブナ林が追加され「カルパティア山脈のブナ原生林とドイツの古代ブナ林」となりました。2017年にさらに9か国が追加されて現在の名称になり、2021年にさらに6か国が加わりました。

登録対象はウクライナの15箇所、イタリアの13箇所、ルーマニアの12箇所、ブルガリアの9箇所、スペインの6箇所、スロバキア・ドイツ・オーストリア・ベルギーの各5箇所、ポーランドの4箇所、クロアチア・フランスの各3箇所、アルバニア・スロベニア・スイスの各2箇所、ボスニア・ヘルツェゴビナとチェコ・北マケドニアの各1箇所の計18か国の94箇所の自然保護区です。

ウクライナ・スロバキア・ポーランドの指定箇所はそれぞれ近接しており、行政区分上は、ほとんどザカルパッチャ地方に含まれており、スロバキアの登録対象は全てプレショウ県に含まれています。

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林の登録の推移
登録年	登録名	登録国
2007年	カルパティア山脈のブナ原生林	スロバキア、ウクライナ
2011年	カルパティア山脈のブナ原生林とドイツの古代ブナ林	スロバキア、ウクライナ、ドイツ
2017年	カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林	スロバキア、ウクライナ、ドイツ、ベルギー、アルバニア、オーストリア、ブルガリア、クロアチア、イタリア、ルーマニア、スロベニア、スペイン
2021年	カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林	スロバキア、ウクライナ、ドイツ、ベルギー、アルバニア、オーストリア、ブルガリア、クロアチア、イタリア、ルーマニア、スロベニア、スペイン、北マケドニア、スイス、チェコ、フランス、ポーランド、ボスニア・ヘルツェゴビナ

カルパチア山脈とブナ林の登録の経緯

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、2007年にスロバキアとウクライナが共同で「カルパティア山脈のブナ原生林」として世界遺産に登録されました。その後、2011年にはドイツのブナ林が追加され、「カルパティア山脈のブナ原生林とドイツの古代ブナ林」に名称が変更されました。さらに、2017年には9か国、2021年には6か国が追加され、現在の名称「カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林」となりました。

この世界遺産は、ヨーロッパに残る数少ないブナ林を保護するために、登録範囲を拡大してきました。当初はカルパチア山脈のブナ原生林のみでしたが、ヨーロッパ各地に同種の価値を持つブナ林が存在することが明らかになり、登録範囲が拡大されたのです。

2017年の拡大登録により、この世界遺産は12か国にまたがる世界遺産となり、世界遺産リストの中でもっとも多くの国にまたがる世界遺産となりました。さらに、2021年には6か国が加わり、18か国に拡大されました。

この世界遺産は、ヨーロッパブナの原生林の保護と、その生態系の保全を目的としています。

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林の構成資産
国名	構成資産数
ウクライナ	15
イタリア	13
ルーマニア	12
ブルガリア	9
スペイン	6
スロバキア	5
ドイツ	5
オーストリア	5
ベルギー	5
ポーランド	4
クロアチア	3
フランス	3
アルバニア	2
スロベニア	2
スイス	2
ボスニア・ヘルツェゴビナ	1
チェコ	1
北マケドニア	1

カルパチア山脈とブナ林の構成資産

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、18か国にまたがる94箇所の自然保護区から構成されています。

ウクライナでは、カルパティア生物圏保護区に含まれる5箇所と、東カルパティア生物圏保護区に属するウジャンスキ国立自然公園に含まれる1箇所、シネヴィル国立自然公園の4箇所、ザチャロヴァニ・クライ国立自然公園の2箇所、ロストチア生物圏保護区とゴルガニ自然保護区が登録されています。

スロバキアでは、東カルパティア生物圏保護区に属するポロニニ国立公園とその緩衝地域の保護区、ハヴェショヴァー自然保護区とヴィホルラット景観保護区が登録されています。

ポーランドでは、東カルパティア生物圏保護区に属するビェシュチャディ国立公園が登録されています。

まとめ

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、ヨーロッパに残る貴重なブナ林を保護するために、18か国にまたがる94箇所の自然保護区が登録されています。

この世界遺産は、ヨーロッパブナの原生林の保護と、その生態系の保全を目的としています。

登録範囲は、カルパチア山脈のブナ原生林から始まり、ドイツ、イタリア、スペインなど、ヨーロッパ各地に拡大しています。

この世界遺産は、ヨーロッパブナの原生林の価値と、その生態系の重要性を世界に示すものです。

2. ヨーロッパ地域の原生ブナ林の生態系

ヨーロッパブナの生態系

ヨーロッパブナは、世界の樹種の中でもきわめてユニークな生存戦略を示しています。さまざまな環境に適応できる一方、条件に恵まれると他の樹種を排除して優勢となります。

広い葉と大きく広がった枝を持ち、葉が空を覆うため森の中は暗く、他の樹種は育ちにくく単一種による優占林を形成します。

しかしながら葉が薄いため広葉樹林の中では比較的明るく、草花やコケ類・地衣類・キノコなどはよく育ちます。樹種は少なくても植物相・動物相ともに厚く、維管束植物（維管束を持つシダ植物や種子植物）については1

動物も多様で、ヒグマやヨーロッパバイソン、オオカミ、オオヤマネコ、ヘラジカといった大型哺乳動物の貴重なすみかとなっています。

ブナ林の多様性

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、94もの構成資産を有していますが、カルパチア山脈の原生林が非常に古いのに対し、ドイツのブナ林は比較的新しいなど、同じブナ林でもさまざまな森林タイプが混在しています。

また、標高についても0～2

岩盤については結晶片岩・石灰岩・フリッシュ・安山岩等々、土壌については酸性土壌から高石灰質土壌まで多彩で、結果的にヨーロッパブナ林のほぼすべてのタイプがそろっています。

このように、カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、ヨーロッパブナ林の多様性を示す貴重な場所となっています。

ブナ林のタイプ
タイプ	特徴
原生林	樹齢が古く、人の手が入っていない
古代林	歴史的に人の手が入っていたが、現在では保護されている
混合林	ブナ以外の樹木も生育している
純林	ブナのみが生育している

ブナ林の生態系と生物多様性

原生ブナ林は、数百年にわたり自然に育まれた貴重な生態系を持つ。その生物多様性は非常に豊かであり、多くの珍しい植物や動物が生息している。

原生ブナ林の生態系は、豊かな樹木層、低木層、草本層から成り立っている。この豊かな植生は、さまざまな生物の生息地となっており、生物の食物連鎖や生態系のバランスを支えている。

原生ブナ林には、ブナをはじめとする樹木のほかにも、コケや地衣類など豊富な植物相が存在する。その中には固有種や絶滅危惧種も多く含まれており、貴重な遺産となっている。

豊かな植生が生み出す環境は、多種多様な動物たちにとっての重要な生息地となっている。鳥類、昆虫、哺乳類などさまざまな動物がこの地で繁栄しており、その生態系を支えている。

ブナ林の生物多様性
生物種	種類
植物	ブナ、ナラ、カエデ、ボダイジュ、トネリコなど
動物	ヒグマ、ヨーロッパバイソン、オオカミ、オオヤマネコ、ヘラジカなど
菌類	約480種
コケ類	400種以上
維管束植物	1100種以上

まとめ

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、ヨーロッパブナの原生林の生態系と生物多様性を示す貴重な場所です。

この地域には、ヨーロッパブナをはじめとする多様な樹木が生育し、ヒグマやヨーロッパバイソン、オオカミ、オオヤマネコ、ヘラジカといった大型哺乳動物など、多くの動物が生息しています。

ブナ林は、多様な環境に適応したヨーロッパブナの進化の過程を示すものであり、生態学的に重要な場所となっています。

この世界遺産は、ヨーロッパブナの原生林の生態系と生物多様性を保護するために、国際的な協力が必要となります。

3. カルパチア山脈の歴史的背景

カルパチア山脈の地理的特徴

カルパチア山脈は、中央ヨーロッパの広大な地域に広がる山脈であり、チェコ、ポーランド、ウクライナ、スロバキア、ルーマニア、セルビア、ハンガリーにまたがっています。

その長さは約1

カルパチア山脈は、ヨーロッパの自然と歴史を感じることができる貴重な地域であり、多くの観光客にとって魅力的なスポットとなっています。

カルパチア山脈の地理的特徴
項目	内容
位置	中央ヨーロッパ
面積	広大な地域
標高	2,655メートル
地形	高い山々から低い丘地帯まで多様

カルパチア山脈の歴史

カルパチア山脈の歴史は古く、古代ケルト人やゲルマン人、スラブ人などの古代文明の遺跡もこの地域には点在しています。

そのため、歴史や文化にも興味を持つ人々にとっても魅力的な地域と言えるでしょう。

カルパチア山脈は、ヨーロッパの自然と歴史を感じることができる貴重な地域であり、多くの観光客にとって魅力的なスポットとなっています。

ヨーロッパブナの分布と拡大

ヨーロッパブナは、北はスウェーデン南部から南は地中海岸、西はポルトガル、東はトルコまで広がっていて、氷河期後期には、ヨーロッパの約40％はヨーロッパブナ（ファグス・シルヴァティカ）の林が広がっていました。

これらはもともとはスロヴァキアとウクライナの世界遺産として登録されたものの、2011年にドイツ、2017年に9ヶ国にまたがり、2021年には18ヶ国にまで拡張。

登録エリア各地にはブナの原生林が広がっていて、ヨーロッパブナの原生林としては世界最大の規模を誇ります。

ヨーロッパブナは過去100万年にも渡って各氷河期を生き抜き、やがてヨーロッパ各地に拡大。各地には10種類の原生ブナが残っていて、これらは陸上生態系の進化やブナの拡大の過程が分かるもの。

まとめ

カルパチア山脈は、ヨーロッパの自然と歴史を感じることができる貴重な地域であり、多くの観光客にとって魅力的なスポットとなっています。

4. ブナ林の生物多様性の保全

ブナ林の生物多様性

カルパチア山脈を中心としたヨーロッパ各地のブナ林には、ブナだけでなくその他の植物や動物も豊富に存在します。

生息・生育する動植物の規模や種類は以下の通りです。

特に古代から生育するドイツの古代ブナ林は、氷河期以降の動物の進化や生態系の形成の過程を現在でも見ることができる貴重な地域です。

このようにひとくくりに「ヨーロッパのブナ林」と言っても、地域によって生育するブナの種類や進化過程、生息する動植物に違いが起きているのです。

ブナ林の保全の重要性

ヨーロッパを含め、ブナ林はかつて世界の広範囲に存在していました。

しかし気候変動や人の手による伐採などによって、ブナ林の面積は年々減少傾向にあります。

ヨーロッパでも、かつてはヨーロッパ全面積の約40%をブナ林が占めていましたが、現在は全盛期と比べるとはるかにその面積を減らしています。

とはいえ、ヨーロッパには現在でも広範囲においてブナが生育しています。ここまでブナの生育範囲が広いのは世界的に見て非常に珍しいのです！

ブナ林の保全に向けた取り組み

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、その自然の美しさや古代の歴史的価値から、世界遺産として登録されることとなりました。

この地域は、豊かな生態系と生物多様性を有し、その保存と保護が国際的な関心を集めています。

遺産登録の過程では、この地域の重要性や価値が詳細に調査され、専門家による厳格な審査が行われました。

その結果、カルパチア山脈とブナ林は、世界遺産としての基準を満たすと認められ、その美しさや歴史的な意義が世界中の人々に認識されることとなりました。

まとめ

カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、ヨーロッパブナの原生林の生態系と生物多様性を示す貴重な場所です。

ブナ林は、多様な環境に適応したヨーロッパブナの進化の過程を示すものであり、生態学的に重要な場所となっています。

この世界遺産は、ヨーロッパブナの原生林の生態系と生物多様性を保護するために、国際的な協力が必要となります。

5. 世界遺産登録の意義

世界遺産登録の背景

カルパチア山脈とヨーロッパ地域の古代及び原生ブナ林は、その自然の美しさや古代の歴史的価値から、世界遺産として登録されることとなりました。

この地域は、豊かな生態系と生物多様性を有し、その保存と保護が国際的な関心を集めています。

遺産登録の過程では、この地域の重要性や価値が詳細に調査され、専門家による厳格な審査が行われました。

世界遺産登録による効果

世界遺産登録は、カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林の保護と保全に大きく貢献しています。

登録によって、この地域の価値が世界的に認められ、国際的な注目を集めるようになりました。

また、登録によって、観光客の増加が見込まれ、地域経済の活性化にもつながっています。

さらに、世界遺産登録は、地域住民の意識を高め、自然保護への関心を高める効果も期待できます。

世界遺産登録による効果
効果	内容
価値の向上	世界的に価値が認められる
国際的な注目	国際的な関心を集める
観光客の増加	地域経済の活性化
意識の向上	自然保護への関心を高める

世界遺産登録の課題

世界遺産登録は、地域住民の生活や経済活動に影響を与える可能性もあります。

観光客の増加は、環境負荷の増加や、伝統的な文化や生活様式の変化につながる可能性があります。

そのため、世界遺産登録は、地域住民との連携を密にすることが重要となります。

また、世界遺産登録は、地域住民の生活や経済活動に影響を与える可能性もあります。

世界遺産登録の課題
課題	内容
環境負荷	観光客の増加による環境負荷
文化の変化	伝統的な文化や生活様式の変化
地域住民との連携	地域住民との連携不足