マネタリーベースとは?経済用語について説明

マネタリーベースとマネーストックの比較
項目 マネタリーベース マネーストック
定義 中央銀行が直接供給する通貨量 金融部門全体から経済に供給されている通貨の総量
供給源 中央銀行 金融部門全体
計算式 日本銀行券発行高 + 貨幣流通高 + 日銀当座預金 現金通貨 + 預金通貨 + 準通貨 + CD
コントロール 中央銀行が直接コントロール 民間銀行が主体的にコントロール
経済への影響 金利、物価、為替に影響 経済活動の活発化、インフレ、デフレに影響
量的緩和、マイナス金利政策 信用創造

1. マネタリーベースの定義とは

要約

マネタリーベースとは何か?

マネタリーベースとは、中央銀行が世の中に直接供給するお金の量のことです。具体的には、市中に出回っている現金(日本銀行券発行高+貨幣流通高)と日本銀行当座預金の合計値を指します。世の中に存在するすべてのお金とも言い換えられます。

マネタリーベースに近しい概念として挙げられるのが「マネーストック」です。マネーストックは「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」のことです。具体的には、個人・企業・地方公共団体が保有する通貨の総量で、金融機関や政府が保有しているものは含みません。

つまり、マネタリーベースから金融機関や政府が保有している通貨を差し引くと、マネーストックとなるのです。

マネタリーベースとマネーストックの比較
項目 マネタリーベース マネーストック
定義 中央銀行が直接供給する通貨量 金融部門全体から経済に供給されている通貨の総量
供給源 中央銀行 金融部門全体
コントロール 中央銀行が直接コントロール 民間銀行が主体的にコントロール

マネタリーベースの役割

政府はマネタリーベースをコントロールする金融政策を行い、景気を調整しています。景気を良くしたいときはマネタリーベースを拡大させ、抑えたいときは縮小させるのです。

もしマネタリーベースが拡大されれば、金融機関が保有するお金が増えます。そして、金融機関はそのお金を企業や個人に貸し出すことで、投資や消費が活発となり、景気の浮揚へとつながります。

反対にマネタリーベースを縮小させれば、その逆の現象が起こり、景気の悪化につながるとされています。

マネタリーベースの拡大政策
政策 内容
マイナス金利政策 日銀当座預金にマイナス金利を適用
量的緩和 国債などの金融資産を買い入れ、市場に資金を供給

マネタリーベースの拡大政策

マネタリーベースの拡大を狙った金融政策で代表的なものは「マイナス金利政策」でしょう。マイナス金利政策とは、日銀当座預金にマイナスの金利を適用させるというものです。日銀当座預金には、銀行が銀行間決済のために使うお金が預けられています。

日銀当座預金にマイナス金利が適用されるということは、預入期間に応じて銀行が金利を支払わなければいけません。よって、銀行は日銀当座預金に預金せず、投資や融資などを積極的に行うので、市場にお金が流通します。結果、マネタリーベースとマネーストックが共に拡大し、景気回復を図れるのです。

まとめ

マネタリーベースは、中央銀行が直接的にコントロールできるお金の量であり、金融政策によって調整されます。

マネタリーベースの拡大は、金融機関への資金供給を増やし、投資や消費を促進することで景気を活性化させる効果が期待されます。

一方、マネタリーベースの縮小は、金融機関への資金供給を抑制し、投資や消費を冷やすことで景気を抑制する効果が期待されます。

2. マネタリーベースの計算方法とは

要約

マネタリーベースの計算式

日本におけるマネタリーベースは、以下の計算式で求められます。

マネタリーベース = 日本銀行券発行高 + 貨幣流通高 + 日銀当座預金

日本銀行券発行高とは、市中に出回っている紙幣の合計金額です。貨幣流通高は、市中に出回っている貨幣の合計金額(記念貨を含む)を指します。

日銀当座預金(日本銀行当座預金、日銀当預)とは、日本銀行が取引先の金融機関などから受け入れる当座預金のことです。日銀当座預金には、決済手段・支払準備・準備預金としての役割があります。

マネタリーベースの計算式
項目 説明
日本銀行券発行高 市中に出回っている紙幣の合計金額
貨幣流通高 市中に出回っている貨幣の合計金額(記念貨を含む)
日銀当座預金 日本銀行が取引先の金融機関などから受け入れる当座預金

マネタリーベースの計算例

仮に日本銀行券発行高100兆円、貨幣流通高50兆円、日銀当座預金500兆円の場合、マネタリーベースは650兆円です(100兆円 + 50兆円 + 500兆円)。

マネタリーベースの推移

日本銀行が発表している「マネタリーベース(月末残高)」を参考に、2013〜2023年における、マネタリーベース(12月末残)をまとめました。

・2013年12月:202兆円

・2014年12月:276兆円

・2015年12月:356兆円

マネタリーベースの推移(12月末残)
マネタリーベース(兆円)
2013 202
2014 276
2015 356
2016 437
2017 480
2018 504
2019 518
2020 618
2021 670
2022 632
2023 673

まとめ

マネタリーベースは、日本銀行券発行高、貨幣流通高、日銀当座預金の合計で計算されます。

マネタリーベースは、近年増加傾向にあり、2013年から10年かけて3倍以上になったことがわかります。

3. マネタリーベースと金融政策の関係性

要約

金融政策とは

金融政策とは、金融緩和や金融引き締めのように、日本銀行が金融面から物価・経済を安定させるために実施する政策のことです。

金融緩和とは、市場に資金を供給することで、金利を下げ、経済活動を活発化させる政策です。

金融引き締めとは、市場から資金を回収することで、金利を上げ、経済活動を抑制する政策です。

金融政策の種類
政策 内容
金融緩和 市場に資金を供給し、金利を下げる
金融引き締め 市場から資金を回収し、金利を上げる

マネタリーベースと金融政策の関係

マネタリーベースは、日本銀行が金融政策を実行する際にコントロールされることがあります。マネタリーベースの拡大・縮小により、景気を調整しています。

金融緩和政策では、マネタリーベースを拡大することで、市場に資金を供給し、金利を下げ、経済活動を活発化させます。

金融引き締め政策では、マネタリーベースを縮小することで、市場から資金を回収し、金利を上げ、経済活動を抑制します。

マネタリーベースと金融政策の例

2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際に、マネタリーベースが話題になりました。なぜなら、金融市場調節の操作目標を無担保コールレート(オーバーナイト物)から、マネタリーベースに変更したためです。

また、民間の金融機関が日本銀行に預けている預金金利をマイナスにする「マイナス金利政策」は、マネタリーベースの拡大を狙った政策として知られています。マイナス金利を適用すると、金融機関は預入金額・期間に応じて利息を支払わなければいけなくなるため、資金を預け入れず積極的に投資・融資などに回すことを考えるでしょう。投資・融資量が増えれば、市場に資金が流通します。

まとめ

マネタリーベースは、金融政策によってコントロールされる重要な指標です。

金融緩和政策では、マネタリーベースを拡大することで、市場に資金を供給し、金利を下げ、経済活動を活発化させます。

金融引き締め政策では、マネタリーベースを縮小することで、市場から資金を回収し、金利を上げ、経済活動を抑制します。

4. マネタリーベースの役割とは

要約

マネタリーベースの役割

マネタリーベースは、金融政策の目標値として用いられることがあります。

例えば、日本銀行は2013年4月から、金融市場調節の操作目標を無担保コールレートからマネタリーベースに変更しました。

これは、マネタリーベースをコントロールすることで、市場の資金供給量をより直接的に調整できるためです。

マネタリーベースと物価の関係

マネタリーベースが拡大すると、一般的に物価も上昇します。なぜなら、マネタリーベースが拡大することで市場にお金が出回り、消費活動が促進されるためです。

物価が上昇してインフレーションが進めば、景気の拡大も期待できます。

マネタリーベースと金利の関係

一般的に、マネタリーベースが拡大すると金余りの状態になり、金融機関に資金が滞留するため、金利の低下が進みます。

その反対に、マネタリーベースが縮小した場合は、市場に出回る資金の量が減り、金利は上昇することが一般的です。

まとめ

マネタリーベースは、金融政策の目標値として用いられることがあります。

マネタリーベースは、物価や金利に影響を与える重要な指標です。

マネタリーベースの拡大は、金利の低下や物価の上昇につながることがあります。

マネタリーベースの縮小は、金利の上昇や物価の下落につながることがあります。

5. マネタリーベースとマネーサプライの違いとは

要約

マネーサプライとは

マネーストックとは、金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量を意味する言葉です。

マネーストックは、金融機関や中央政府を除いた経済主体(一般法人・個人・地方公共団体など)の残高から集計されます。

マネーストックの分類

マネーストックは、M1・M2・M3・広義流動性の4種類に分類できます。それぞれの計算式は、以下のとおりです。

・M1 = 現金通貨 + 預金通貨

(預金通貨の発行者は全預金取扱機関)

・M2 = 現金通貨 + 預金通貨 + 準通貨 + CD

マネーストックの分類
指標 計算式
M1 現金通貨 + 預金通貨
M2 現金通貨 + 預金通貨 + 準通貨 + CD
M3 現金通貨 + 預金通貨 + 準通貨 + CD + 投資信託 + 金融債 + 銀行発行普通社債 + 金融機関発行CP + 国債 + 外債
広義流動性 M3 + 金銭の信託 + 投資信託 + 金融債 + 銀行発行普通社債 + 金融機関発行CP + 国債 + 外債

マネタリーベースとマネーストックの違い

マネタリーベースとマネーストックの主な違いとして、どこから供給される通貨なのかという視点が挙げられます。

マネタリーベースは「中央銀行」が供給する通貨に注目しているのに対し、マネーストックは「(中央銀行を含む)金融部門全体から経済に対して」供給される通貨に注目したものです。

マネタリーベースとマネーストックの比較
項目 マネタリーベース マネーストック
供給源 中央銀行 金融部門全体
コントロール 中央銀行が直接コントロール 民間銀行が主体的にコントロール

まとめ

マネタリーベースは、中央銀行が供給する通貨の量です。

マネーストックは、金融部門全体から経済に供給されている通貨の総量です。

マネタリーベースとマネーストックは、どちらも通貨供給量を示す指標ですが、供給源が異なります。

6. マネタリーベースの変化が経済に与える影響とは

要約

マネタリーベース拡大の影響

マネタリーベースを拡大する政策を実施すると、以下のような影響を与えます。

・個人・企業が資金調達しやすくなる

・輸出が増加する

マネタリーベース拡大の影響
影響 説明
資金調達容易 企業や個人が資金を借りやすくなる
輸出増加 円安が進み、輸出企業の競争力が強まる
物価上昇 市場に出回るお金が増加し、需要が高まるため

マネタリーベース縮小の影響

マネタリーベースを縮小する政策を実施すると、以下のような影響を与えます。

・個人・企業が資金調達しにくくなる

・輸入が増加する

マネタリーベース縮小の影響
影響 説明
資金調達困難 企業や個人が資金を借りにくくなる
輸入増加 円高が進み、輸入品が安価になる
物価下落 市場に出回るお金が減少するため

マネタリーベースと物価の関係

一般的に、マネタリーベースが拡大すると物価も上昇します。なぜなら、マネタリーベースが拡大することで市場にお金が出回り、消費活動が促進されるためです。

物価が上昇してインフレーションが進めば、景気の拡大も期待できます。

まとめ

マネタリーベースの拡大は、資金調達を容易にし、輸出を促進し、物価上昇につながる可能性があります。

マネタリーベースの縮小は、資金調達を困難にし、輸入を促進し、物価下落につながる可能性があります。

マネタリーベースは、経済活動に大きな影響を与える重要な指標です。

参考文献

マネタリーベースとは|経済指標用語集|iFinance

マネタリーベースとは?マネーストックとの違いもわかり …

【マネタリーベースとは?】図解でわかりやすく解説 – 日本の …

マネタリーベース、マネーストック、マネーサプライの違いは …

日銀のマネタリーベースとは?金利・物価との関係性や推移を …

マネタリーベース(まねたりーべーす)とは? 意味や使い方 …

「マネタリーベースとマネーストック」「金融政策と財政政策 …

マネタリーベースとは?わかりやすく解説|中小企業診断士 …

マネタリーベース – Wikipedia

【推移でわかりやすく】マネタリーベースとは?日本銀行が …

マネタリーベースとマネーストック(マネーサプライ)の違い

マネタリーベースとは|為替相場への影響はどうなるの …

わかりやすい用語集 解説:マネタリーベース(まねたりーべー …

マネーストックとは何か?マネタリーベースとの違いは …

マネーサプライとマネタリーべースの違い|信用乗数の計算 …

マネタリーベースとは 日銀の量的緩和姿勢を反映 – 日本経済新聞

マネタリーベース | 金融・証券用語解説集 | 大和証券

「マネタリーベース」の誤解 マネタリーベース増加にこだわる …

タイトルとURLをコピーしました